陸弐 人間と死神 ページ15
病院に戻る途中。
愚民共による人集りが出来ていた。近付いたのはただ単に好奇心からか、隊服を着た事による責任感か。
いや、後者はねェな。
「どきなせェ。早くしねーとしょっ引きやすぜ」
するとすぐ、道は開いた。
いやだなーアメリカンジョークなんだけど。
路地には…頭から血を流した女が座り込んでいて。
「おい、起きろ」
肩を叩けば小さく呻いた後、頭を押さえる。
驚いた様に見開いた翠眼。と…赤い石のネックレス。
似てる。…いや、何にだ。
「あ、大丈夫です。放っておいて下さい。
いつか、治りますんで」
いや、出血多量で死ぬレベル。
放っておいて死なれれば、何かすっきりしねェ気がする。だから首のスカーフを解き、頭に押し付けた。
「押さえてな」
「え、血付きますよ。…ありがとう」
奴はそう言って、立ち上がれば全身が震えている。
大方、脳震盪でも起こしたんだろう。っつか。
「何処いくんでィ。病院こっち」
「えっ!?帰宅するんですよ、何時だと思ってんですか!!やばいな…怒ってるだろうな…」
「アンタの血みどろの頭のがやばいでさァ。
こりゃ何針か縫うかも」
すると怯えた様な目で、行かないと言い張る。
あー怖ェんだな病院。
「大丈夫、大丈夫。頭に針が刺さるだけだから」
「何えげつない事、笑顔で言ってんですか!!
兎に角、行きませんから」
ったく、何歳だよ。
通り掛かったタクシーに押し込む。
「大江戸病院まで、頼まァ」
「いやー誘拐です!!助けてー」
俺が運転手に警察手帳を見せれば、車が発進する。
…だが次の瞬間。車の窓ガラスが割れて。
飛び散る破片の中、俺は女を抱き締めて庇っていた。
「な、何を!!」
分かんねェ。どうした、俺。
「おやじ、車止めんな。走り続けろ」
攘夷浪士だとして、ここで止まった方が危険だ。
なにせ、こちとら手負いの女が居るからな。
__バンッ。
いきなりの破裂音。
パンクだ。というか、狙われたのか。
「あ、安心して下さい。狙いは私なんで。
それじゃあ帰ります!」
飄々とした表情でそう言うと、車から降りて走り出した…が、すぐコケた。変な女。
「逃げんぞ」
そう肩に担いで、走り出す。
「うわぁ!?頭から血が流れてる!!
頭に血、昇って余計に流れてる!ほんと死んじゃう」
一々、注文の多い奴だ。
仕方なく一度捨てて、しゃがみ込み背負う。
「背骨折れるー重いよー無理だよー」
「ごめんなさい」
その声は、無視した。いや、してやった。
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時