Ep.117 相対する二人 ページ17
話し相手の男がAへ向けて何か小さなものを放るのが見えた。一拍反応が遅れ、若干もたつきながらそれを受け取る。手のひらを覗いて、Aは愕然とした様子だった。
二人は話をしているようだったが周囲の波音で聞き取れなかった。
今夜のディナーパーティーは、船中の人々が一箇所に集まって注目する特別な機会だ。逆に言えば他の場所から人の気配がなくなるその時間帯に彼女はパーティーを抜け出した。
となれば今、あそこにいるのは人目を避けて会わなければならない人物ということ。コナンにとって見たこともないその男は直感的に彼女が以前電話で会話していた「ボック」だろうと思ったのだが……。
このまま様子を見続けるか、そうすべきでないか、階段の影に隠れて逡巡する。
───────────
「ここへ来てもう数年だな。ここまで来て、元の世界に帰る方法をやっと見付けたところだった。そこにお前が来たんだ」
「……なるほどね。私を組織に入れたのは、常に居場所を把握するためか。米花シティホテルから始まった一連の逃亡事件は父さんの差し金で、目的はこの薬……APTX4869を手に入れることだった」
「その通……」
「で、その作戦に協力してくれた逃亡者役の男はもう用済みってわけだ?」
意図せず声が低くなった。
自分自身からだけでなく、きっと他の誰から見ても私は不機嫌だった。先程まで感じていた怒りを超え、呆れすら超えて、私は────引いていた。
「……さっきも言ったように私は聖人じゃない。正直殺しの仕事をどうするかも迷ってた。だからそれ自体はどうこう言えない。けど、私は」
APTX4869の入ったケースを相手の足元に投げ返した。カラカラと転がって静止する。
「その計画には乗らない」
他人を利用し、騙して裏切り、最後に切り捨てる。確かに"黒の組織"らしい傾向ではあるのかもしれない。その点で言えば、ここでの生き方は私よりも上手いのだろう。正しいと言えば正しい、のかもしれない。
「……理由は?」
「今ので分からない?」
「いや誤解だ、殺すつもりはない。この場で目的は果たされるからだ。必要なものは揃ってる」
「同じことだ! それで父さんがした約束はどうなる? 組織から逃がしてやるって約束は? そもそも私はアンタの話を全部信用したわけじゃない。その薬を飲むかどうかの判断は今できない。帰りたいなら勝手に帰れば?」
「じゃあお前……どうするってんだ」
踵を返し、呟いた。
「……さあね」
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時