拾玖の巻 ページ25
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早く部屋から離れたい。そう思いながら私は奥の部屋へと移動した。
「渉様・・・・。」
私のことを少しでも気にかけてくれた、と思うと何となくうれしい。早く帰らないと花魁達に怪しまれるという不安さえも忘れるくらい。
丁寧に折られた和紙を広げ、文に目を落とした。
「俺の父上からそなたを買う許しが出た。近いうちに家臣と向かう。楽しみにしておけ。」
よかった、買ってもらえる。涙が止まらない。私の着物を濡らしていく。気づいたら嗚咽が漏れるくらい泣いていた。
泣きすぎてばれる、ということも忘れて泣いた。
「和歌さん。」
「っ!!」
花魁が微笑む。先ほどから勘づいていると思っていたが、いる部屋までもばれるとは。
とにかく世界が止まったようだった。血の気が引いて寒くなる。涙も止まってしまった。
「わっちもありましたよ。そのような時が。」
「え・・・?」
くすくすと笑う花魁。流石吉原遊郭トップクラスの美人ではある。何した顔も美人だ。
声色が先ほどより優しくなっているのを感じた。とりあえず怒ってないらしい花魁は傍に座り私の目を見つめた。
「昔、わっちがまだ下級遊女の時でありんした。大名様に見初められ、城に入って大名様の側室となりましてね。」
私と同じ状況だ。まさかこの花魁にもその時期があったとは。
「ですが、子も産めず・・・。里に帰らせられまして、もう一度吉原に売られ・・・・。そこから先は和歌さんも知っている通りでございます。」
さみしそうに微笑む花魁を見て、私は何も言えなかった。意外過ぎる花魁の言葉に、私は面食らっていた。
「そうなんですか・・・・。」
「ええ、和歌さんに行くなとは言いませんが、そのような場合もありますよ・・・ということで、ね?」
そういうと、花魁は私の手を握った。
「津々楽和歌さん、浦田家の嫡男の方に見初められたのはとても素晴らしい事です。ほかの花魁には私から説明しておきますから。浦田のために尽くすのですよ?」
花魁の話を聞くのがやっとだった。私はもう一度泣いた。先ほどよりも声をしゃくりあげて、まるで小さい子供のように花魁にすがった。
「すみません、すみません・・・・・ありがとう、ございます・・・・・。」
とぎれとぎれに言うたどたどしい私の言葉を、花魁は微笑みながら黙って聞いていた。
私の泣き声は、いつまでも静かな部屋に響いていた。
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イチゴミルクキャンディ@サブ垢(プロフ) - PE@みたらし団子バカさん» わー!ありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月18日 19時) (レス) id: e98fc17c66 (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - 更新頑張ってください! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - これは私の好きな種類の話だ! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
いまりちゃん - もでらーと。さん» ありがとうございます!!(パソコンから返信しています。)そしてそしてもでらーと。様は様々な小説を書いていらっしゃるのですね!お星さまが坂田さん色で憧れます(笑)更新頑張ります! (2019年8月3日 22時) (レス) id: 42f8b00619 (このIDを非表示/違反報告)
もでらーと。(プロフ) - おもしろいです…!私、歴女&crewなので超嬉しい組み合わせです!更新楽しみに待ってます! (2019年8月3日 18時) (レス) id: 5d5b1bd419 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イチゴミルクキャンディ | 作者ホームページ:プロ野球
作成日時:2019年7月20日 20時