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固まったままの私とは裏腹に、太一は言葉を淡々と続ける。









「面と向かって『触らせて!』って言ってくる人なかなかいないですし、」


「うっ…」


「野生のポケ○ンかってくらい突然目の前出てくるし、」


「ちょっ、太一」


「どこに居ても会うから『このひとストーカーなんじゃないか』
と疑ったこともありました」


「スっ、…なんですってぇ!?」









あまりの誹謗中傷っぷりにムッとして拳を振り上げると、

カタン、と太一がイスから立ち上がり、

その大きな手で振り上げた拳をふわりと包み込んだ。







もう片方の大きな手は私の机の上に置かれていて、

さっきりよりも至近距離の太一に心拍数が上がる。






顔が熱くなって、視線を下へと逸らす。









「でもね、嬉しくなったんです」









すると、頭上から聞こえてきた言葉は、

意外にも素直で柔らかいもので。






私は、先程の荒ぶった感情や、握られたままの拳を、

どこへ向ければいいのか分からなくなり、

そのまま太一の言葉に耳を傾けることにした。








「Aさんに名前を呼ばれたり、

他愛もない会話したり、ふざけ合ったり出来ることが。」









言葉を続けながら、

机の上にあった太一の手が、

膝のうえに乗せていた私の手をふわりと包む。








「何やってんだろって思う時もあったけど、

ほんとに楽しくて、もっと一緒にいたいと思ったんです」









振り上げていた拳もゆっくりと膝のうえに乗せられる。






大きな手で私の手を包んだ状態のまま、

太一がゆっくりと膝を曲げるようにして足元にしゃがみ込む。




目線を落としたままの私を見上げるような形で

真っ直ぐに見つめる。









「図書室とかで会えると凄く嬉しかったし、」


「……」


「瀬見さんとの噂を聞いたときは、ほんとヤだなって思った」


「ぇ、たいち、」


「クラスマッチの時もすんごい期待して、焦って追い詰めちゃった」









珍しくいつもより早口で言い終えると、

「ほら、結構必死でしょ?」と困ったような表情を
浮かべながら笑った。






そして太一はその表情のまま、









「俺、Aさんが好きです。」














私がいま、1番欲しくてたまらない言葉を口にした。

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作者名:nome. | 作成日時:2017年2月12日 0時

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