今夜君が欲しい【前編】

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歓迎会の夜となった。
各々無理矢理切り上げ、まだ局に戻らなければいけないチームはノンアルで乾杯をしてた。


部署の歓送迎会だから、人数は少ない。
編成局の中でも部署ごとに分かれてる。


今回は30人ばかりの会だった。


その中で局長も務めてる部長はいくつもの会に出席している。部長に合わせて予定は組まれていた。


この個室内に男女比は9:1ぐらい。
圧倒的に男が多かった。



…その中でも、上座に位置する部長。
その隣にバイトの北山さんがいた。



もう、一同言わんとしたい事は目に出てる。目は口ほどに物を言う、と言う様に。



部署異動で去る人、退職する人よりも部長と話してる北山さんは普通ではない。



何がおかしいって、
ガヤが送る人と話ながらも、視線をチラチラ部長と北山さんに向けてることだ。



心配なんだと思う。
北山さんが無理矢理囲われてるんじゃないかって。


でも、それは所詮ガヤの杞憂だ。
どう見ても、北山さんはノリノリだ。



部長に色目を使ってる。
肩を抱き寄せる部長の手を受け入れてる。
時折、上目遣いで、その腕に寄り掛かり寄り添ってる。



個室の座敷は、笑い声で溢れていた。
新編成のタイムテーブルも出来上がり上機嫌だったのもあるかもしれない。



春は出逢いと別れの季節だと、
社会人になれば感じる事が少なくなると思っていたのに、そんな事はなくて。
日々変わる職場環境、人の入れ替わりにきちんと春を感じる。だけど、そういう事が起きるのは春だけじゃなくなったのは、変わった事かもしれない。




＊



他の人と盛り上がってる中、ふと視線をガヤに向けると、ガヤの席は誰も居なかった。
場所でも移動したのかと見回すと、上座にいるはずの部長と、その隣にいた北山さんも席を外しているのか…居なかった。



(ガヤ…？)



ガヤが心配で、俺も話してる相手に断り、立ち上がろうと膝をつく。
少し痺れていた指を何とか動かし、立った所でちょうど部長が戻ってきた。



…隣には、北山さんはいなかった。



部長は一人で戻ってきて、一人で腰を降ろした。



北山さんもガヤもまだ帰ってきていない。



何も心配することは無い
ガヤは俺を愛してるし、北山さんだって部長の愛人だ。



此処にいないのだって、偶然だ。



それでも、焦る気持ちを抑えるように人の後ろをすり抜け、個室を出る襖まで辿り着くと開ける事ができた。


開けた時、ちょうど目の前にガヤがいた。
ガヤだけが。
それに酷く安堵した。

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