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「良い?A。貴方は素敵な女の子に育って、素敵な旦那さんと出会って、素敵な人生を歩むのよ」
お母さんの口癖。耳にこびりついたその言葉は、私の目標だった。
生憎運動能力が無かったから、苦労はしたけれど、それ以外で補えるよう、何でもしてきた。
他人から出た一言から研究し、意図を解読し、自分をさらに完璧へと押し上げる。
理想の自分になって、理想の人生を歩むために。
じゃあ、それは、誰の理想?
私がそうなりたいと思って、ここまで苦労して手に入れたいものだったの?
疑問に思う。そう思うのに、理想を目指している自分がいることに。
「父さんはお前の味方だよ。可愛い可愛い娘だからな」
だって、可愛いを作っていたんだもの。貴方が思う可愛いを、必死で。可愛いって言われたくて。
友達に褒められたくて、いっぱい努力した。
好きな男の子に振り向いてもらいたくて、めいいっぱいお洒落した。
じゃあ今、こうやって生と死の縁を歩く時。
私は何を求めてこの階段から落ちたかったの?
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「…そっか」
ふっと力を抜く。代わりに私の呪霊に力を注ぎ込む。
大きく、巨体をイメージして。強くて、カッコよくて、自信のもてる。
呪霊の肉体が強化されていく。この調子だ。
「全部吹き飛ばせ!」
圧力を全開にしたような呪力が、部屋全体を駆け巡った。
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「…学長の人形が壊れた」
瞑っていた目を、その一言で開ける。
そこには、無惨な姿の大きな人形。
「…ごっ、ごめんなさ……あ!すみません!!本当に!壊すつもりはなかったんです!」
ついやってしまった。まさか壊してしまうとは。
「…ほら。自己PRと希望理由」
「えっ!?えっと…」
五条さんにそう言われて、慌てる。
自分に、言えることは。
「改めて、鈴鹿Aです!
運動が出来ません!
自分の良いところは、良いところがないことです!
今作った目標は、
自分の価値を作る事です!」
我ながら評価下げられそうな自己PRと希望理由だったと思う。でも、学長はそのままの顔で言い放った。
「…採用だ」
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作成日時:2021年1月23日 2時