呪術廻戦〜貳爪探し〜其ノ三

不器用な優しさ ページ8

次の日

縁側に腰掛けている傑の膝の上にAの姿があった

傑は宿から借りてきた絵本の読み聞かせをしている

悟はその様子にどこか不満そうだ

「打ち上げ花火…」

「うん？花火がどうかした？」

今読んでいる絵本に打ち上げ花火というワードが出てきた

目をキラキラとさせながらAは花火を指さす

「私､花火なんてテレビでしか見たことない」

さも当然のように言ったAに言葉が詰まる

「…手持ち花火なんかも？」

「うん 全く」

この位の年頃なら1回や2回､花火を見る機会はあったはずだ

「花火かぁ…母さんが神奈川から迎えに来たら､もう見れないんだろーな…」

少しシュンとしながらAは名残惜しそうに絵本の花火を指でなぞる

…老人から聞いた話だと､あまり良い母親ではなさそうだった

今はホストにかなり入れ込んでるんだとか…

「お前のお袋はいつ迎えに来んだ？」

突然口を開いた悟

「確か来週だったかな」

母が迎えに来るということに､喜びも悲しみも感じていないという素振り

来週…か

「…花火､じいちゃんちで見てみたかったな」

今は4月

花火なんかを手に入れることさえ難しいだろう

諦めるしかない

「…おいガキンチョ お前そんなに花火が見てぇのか？」

「…？まぁ見れるもんなら…」

不良のようにしゃがんでいた悟は立ち上がると､黒いサングラスをクイッと持ち上げる

「行くぞ」

「え？！悟､行くってどこに…」

慌てて裾を掴んで引き止める

傑の膝に座っていたAを､悟はヒョイと軽々抱き上げた

「…」

どこか嫌そうな顔で眉を顰めるA

「ホームセンター 田舎だから たかが知れてるだろーけど､何もしねぇよりはマシだろ」

…悟なりの､精一杯の優しさだったんだろう

ポケットから携帯電話を取り出すと､ピッポッと誰かに電話をかけだした

「…お､麻倉？今車出せるか？…おう いや､ただの買い出しだよ …あーあー大丈夫だってうるせーな 任務に必要なやつだから んじゃ､よろ」

…麻倉の怒った顔が目に見えるようだった

「ここじゃ車は来れねーから 出来るだけ広い道行くぞ」

Aを抱いたまま悟は歩き出した

…どうやらAが傑にベッタリなのが気に入らないらしい

Aの心底胸糞悪いといった顔がどうにも笑いが込み上げてしまった

「…私傑がいい」

「は？こんなグッドルッキングガイと､あの変な前髪…比べるまでもねーだろ」

悟はAを手放す気はサラサラない様子だった

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