呪術廻戦〜貳爪探し〜其ノ二

哀憐 ページ5

『…あ､もうこんな時間か』

気がついた時には､既に空は赤く染まり…烏の群れが段々と黒い点となって飛び去っていく

朝から何も食べていない…なのに空腹という感覚はなかった

動いてないから当然っちゃ当然か

乾燥の済んだ衣服を洗濯機から取り出す

干すこともなくそのまま畳めるから便利だ

高専から支給されている物で､多忙な呪術師には助かる

衣服の山の中から白いヘアバンドを取り出した

粗方汚れは落ちたけど…まだ僅かにシミが残っている

血は落ちにくいからな…

その時､ふとヘアバンドの千切れが気になった

"可哀想"

何故かそんな感情が湧き出してくる

元の形に､いつもの日常に…戻りたいだろう

訳の分からない感情に違和感を覚えながらも､私は着なくなったTシャツをクローゼットから取り出す

私は そのTシャツを傍にあったハサミで裁断し始めた



部屋の前の廊下が少し騒がしくなったな､と思うと同時のこと

コンコンッ…

くぐもった､扉を叩く音が聞こえた

『はーい…』

私は反射的に返事をする

狸寝入りしている方が良かったかもしれない

「あ､A 体調はどう？」

『上々だよ …どうかした？』

当たり障りのない答え

質問に質問で返す…気分の良い物ではないだろう

「その…まだ晩御飯食べてないわよね？真希さん達とファミレスに行こうって話になってて 一緒に来る？」

…どうしよう

食欲もないし､何より昨晩は狗巻先輩に迷惑をかけすぎて…今は先輩の顔をまともに見れない気がする

『…ごめん 病み上がりだし､遠慮しとくよ』

野薔薇にはよくこんな風に誘われることは多々あった

その度に断るのは正直良心が痛む

「だってよ 残念だったな」

真希さんの嘲笑うような声

なんだ…真希さんも一緒にいたのか

「うぐ…分かったわ また今度…」

「どうする､今日はやめといた方がいいんじゃねえか？」

2人の声が遠ざかっていく

…少し悪いことをしたな

私は2人に申し訳なく思いながらも､裁断作業の続きだったことを思い出した


晩御飯はどうしよう

お腹も空いてないし今日はいいかな

来月分の食堂の使用手続きも…早くしないと

そんなことを考えている間にも外は段々と暗くなっていく

私はそんなことに気づく暇もなくヘアバンドの修復を進めていた




交流会まで:あと5日

先輩として→←不安と不満

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す