呪術廻戦〜貳爪探し〜其ノ二

雲霞 ページ19

目の前で呻く呪霊

何故か気分は落ち着いていた

私は其奴の方へと歩み寄り､マシェットナイフを突き付けた

「ひッ"…！」

恐れるように後ずさる

…ふむ 1級かそこらだな

狗巻先輩に倒せるギリギリの範囲だろう

そもそも呪霊がこんな状態じゃなければ私なんかが倒せるはずがなかったんだけど…

『…あんた､喋れる？』

「アぁ"…？おぉァ"アアあ"…」

…無理､か

狗巻先輩の居場所を吐かせることも出来ないな

『じゃあいいよ､死んでも』

呪霊の脳天にナイフを突き刺す

苦しむ暇もなく浄化された呪霊

…"あの日"の呪霊を殺した時と違い…何も感じなかった

いつか…私も大切な人の命の価値も分からなくなるのだろうか

『…さてと､狗巻先輩は…っと』

寺の方へと振り返ると､屋根の上や柱の陰から一部始終を見ていた四級以下の呪霊達がサッと隠れていく

…いちいち相手にする暇もないか

一度寺の中を見てみよう

私は参道を歩き､御社殿への格子戸に触れようとした

『…あれ』

誰かが通った跡がある

ここらだけ砂埃や泥がなく､格子戸も無理矢理こじ開けたようだ

…なんとなくだけど状況が読めてきた

格子戸に手を掛けたその時､僅かな違和感を覚えた

その違和感とは裏腹に､格子戸は簡単に開く

それと同時に､扉の内側から何かが剥がれた

しゃがんで､落ちた紙を拾って見る

『呪符…コレで呪霊の侵入を防いでいたのか』

…となると､十中八九此処にいるのは…

顔を上げると､埃と蜘蛛の巣だらけの御社殿の奥に人影が見えた

その人はぐったりと､汚れた木の床で横になっている

『先輩！』

疑うまでもない

そこに倒れていたのは狗巻先輩だった

『先輩！狗巻先輩ッ！！』

必死に呼びかけて身体を揺さぶるが､反応はない

…五条先生からの言葉が頭を過ぎった

寒気のする思いで､私は狗巻先輩の口元に掌を当てる

…本当に虫のようだが息はあった

少し安心するも､のほほんとしてる場合でもなかった

スマホの明かりを頼りに､狗巻先輩の容態を確認する

口元から流れていたであろう血は固まり､右足はありえないような方向を向いて曲がっている

「ゲホッ…」

先輩が舞った埃に噎せて咳き込む

…本当は怪我人を下手に動かしたら駄目なんだけど

今はそんなことを言っていられない

応急処置をするにも此処じゃ暗すぎる

狗巻先輩の身体を起こし､後ろから抱き締めるようにして腰を浮かし…ほぼ引きずりながら外へと運んだ

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