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ジェム王国
3年前
「クソ神父様！いらっしゃいますか！」
「誰がクソ神父だコラァ！…ってトレゾール様ァ？！」
Aを抱えたトレゾールは、教会の扉を開けると神父を求めて叫んだ。
「貴方の力が必要なんです！何も聞かずに手を貸して頂きたい！」
「何も聞かずにっつったってよォ、アンタが抱えてるその娘、A様だろ」
この国じゃみんな知ってるぜ。女神の生まれ変わりであるA様を城から連れ出したら、例え誰であろうと反逆罪で死刑だってな。
そう言って煙草に火をつける神父。
「アンタに手を貸せば俺も反逆罪で死刑だろ？いくらトレゾール様の頼みでも嫌なこった」
「…ジェムが、」
「ジェム？」
トレゾールが涙を堪えて口を開いた。
「ジェムはAの涙なんです！！15年間ずっと、一年に一度の聖誕祭のパレード以外で城の外に出ることも許されず、ずっと涙を流し続けてきたんです！この子は…この子は実の父親に鞭で打たれていた！」
「なっ、」
「可哀想に…可哀想に！こんな小さな女の子が、ずっと国を背負ってきた…私が、私達大人が不甲斐ないばかりに！」
トレゾールは懺悔するように膝をついた。
「Aを自由にしてやりたいのです！頼みます、手を貸してください！もう時間が無いのです！時期にロワイユとその部下達が追ってくるでしょう、今すぐにこの国を出る船を…！」
『大丈夫だよ』
縋るように神父に詰め寄っていたトレゾールの服の裾を掴んでAが言った。
『私にしか出来ないんだってお父様が言ってたもの。私はこの国の王女だから』
「そりゃあ随分なこって」
『だから与えなきゃいけないんだよ』
「あ？」
Aは笑った。
『みんな欲しいものがある。私は王女だから…女神の生まれ変わりだから、与えなきゃいけないの』
どこか諦めたようにAに、トレゾールが涙した。
神父はその表情にどこか薄気味悪さを感じた。それと同時に、この娘がこうなってしまった原因は、この国だと理解した。
「おい引きこもり王女サマよォ」
『引きこもり…？』
「そうだよ、お前みたいな城から出ない奴は引きこもりだ」
『わ、私が出たくなくてお城から出ないんじゃないもの！』
「へぇ？」
『…なによ』
拗ねたように頬を膨らませたAを見て、神父が意地悪く笑った。
「決めた。お前を城から…この国から出してやるよ」
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作者名：酒粕 | 作成日時：2022年8月18日 1時
