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「A」
「…あれ、傑だ。おつかれ」
家入は騎馬戦が終わり次第早々とリカバリーガールの元へと帰っていった。ただの騎馬戦という競技でそこまで白熱するだろうか。ヒーローの卵は随分熱いらしい。
競技を終えた夏油に八雲は笑いかけた。
「悟のこと、止めてくれない？」
「やだ」
「なぜ？」
「…傑、やっぱ怖いんでしょ」
「…まさか」
「また、殺しちゃうかもって？」
両者、譲らなかった。
決して目を逸らさなかった。逸らしたら負け。所謂意地の張り合いだった。
そんな中、一人の男の声が響いた。
「…話って、何」
夏油も八雲も、即座の判断で近くの物陰に身を潜めた。聞いてはならないような話だと理解した。しかし、そういう話こそ聞き耳を立てたくなる。これは人間の性だ。
彼らはクズだった。八雲はともかく、夏油はどうしようも無いクズだった。
人の弱みは聞いてなんぼ。先程の空気はどこへやら。二人は耳に全神経を集中させていた。
「気圧された」
聞こえたのは、低い、低い声だった。
轟は個性婚で産まれた子供だった。重く発する言葉はまるで氷のようだった。しかし、八雲と夏油にとってそういう話は割と当たり前で、どこか親しみ深い話だった。
「俺をオールマイト以上のヒーローに育てあげることで自身の欲求を満たそうってこった。…鬱陶しい。そんなクズの道具にはならねぇ」
「クソ親父の個性なんざなくたって…いや、」
「使わずに一番になることでやつを完全否定する」
ああ、くだらない。夏油は心底そう思った。
やはり嫌いだ。見ていられない。
夏油が歩き出すと八雲も後を付いていった。途中、爆豪もまた聞き耳を立てていたのだろう。こちらを見向きもせずにじっと床を見つめていた。
八雲は夏油が思考の渦にいることを知りながらも、声をかけた。
「大層な世界だよね、本当に」
「…そうだね」
彼らはよく知っていた。
良い術式を持つ子を欲しがる連中を、相伝の、強い術式を持った子の結末を、相伝じゃない、弱い術式を持った子の結末を。
使わずに一番に、そんなことを目指そうと思えること自体が可笑しいのだ。
全てを使って、使い果たして、それでも無力だった。世界が違うことはわかっている。それでも染み付いた物はそう揺るがない。嫌いだ。どうしようもなく、嫌いだ。
「また、殺しちゃうかもって？」
八雲は昔から正しかった。だから、苦手だった。
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あお - 間の開け方とか言葉選びとかすごい良かったです！！ (2022年8月28日 20時) (
レス) @page18 id: c1da01ed72 (このIDを非表示/違反報告)
トマトまと(プロフ) - 呪術師側のイカれ具合とか、ヒーローに対する嫌悪とか、全て大好きです。 (2022年1月2日 15時) (レス) @page50 id: 1d9d2ab89b (このIDを非表示/違反報告)
あかし - あくまで私個人の感想です。書き方やオチ希望してる方がいますがこれは作者様の作品です。書き方も展開も終わり方も全て作者様の自由です。私はこのままの作品が好きですし、作者様の自由にして下さい。言葉選び、文脈全てが大人で素敵です。これからも応援しています。 (2021年8月7日 14時) (レス) id: 9951821a6a (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - 誰が喋っているのか聞いてくれないとわかりません。 (2021年6月28日 8時) (レス) id: 453c097156 (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - 誰が喋っているのか聞いてくれないとわかりません。 (2021年6月28日 8時) (レス) id: 453c097156 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ずんだもち | 作成日時：2021年2月11日 11時
