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Aは賢い子供だった。
計算高く、すべての動作は彼が得をするようになっていたと思う。Aの望む、誰もが幸せになれる楽園をつくるために。
だけど、何よりも大切な家族を亡くしたことで、Aは物事に一切の興味を失ってしまった。
個性により人形体であるAは、食事や睡眠を取らなくても形式上は生きていける。例え手足を捥がれようとも、針と糸で繋ぎ合わせれば元通り。
自ら物を食べようとしないAの不幸中の幸いだけど、それは同時に家族の元に昇れない重りでもあった。
「美味いか？美味いだろ？俺のオススメなんだぜ」
それでもこうして食事を届けに来るのは仁のエゴだ。紙パックの葡萄ジュースを手渡してストローをAの口元まで誘導するのも。
Aは死にたがっている。家族の元に行きたがっている。それを分かっていながら、仁は今日もAを現世に留める。
慈悲深い家族に恵まれたAは、不思議なことに慈悲がない。
社会からはみ出された仁は、楽園を築くためならばどんな犠牲だって厭わないと狂った愛をぶくぶくと膨らます異端児をどうも他人には思えなかった。
「俺さ、義爛のヤツに言われてよ、仲間をつくることにしたんだ」
「……」
「それでよ、Aさえよければなんだけどよ、一緒に行かねえか？…いや、行こう！俺はおまえを置いていけねえよ」
「……」
「…うん、そうしよう。勝手に決めてごめんな」
仁はひとり頷くと、手についたパンのカスを落としてAの手をとった。細っこい少年の手首は、簡単に指を回せてしまう。
力をいれれば折れてしまいそうな体が恐ろしくて、いつの間にか仁は裁縫が人並みにできるようになっていた。
Aの身体には、仁が針を通した痕がいくつも残っている。
もっと綺麗に直してやりたかった。昔の縫い目を見るたびに、仁は己の腕が恨めしくなる。今だってとても綺麗とは言えないけど、ちょっとはマシなはずだ。
「……」
小さな口は開かず、宝石のようにキラキラと輝いていた瞳は何も映さない。
もう一度、常人には理解され難い思考をさも当たり前のように垂れ流し、三日月のように細められた目でくすくすと笑うAの姿が見たかった。
義爛から提案を受けたとき、これだと仁は思った。
何年も一緒にいた仁にはAのこころを縛る鎖を解くことができなかった。だから、悔しいけど、賭けることにしたのだ。
いつか出会う仲間たちがAのこころを開くことを願って。
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緑猫(プロフ) - しらないさん» ご返信が大変遅れました…！申し訳ないです！コメントありがとうございます！！思いついたときにこそこそ書き溜めていけたらと考えております＾＾ (2021年12月29日 0時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
しらない - 面白い。好き (2021年12月22日 14時) (レス) @page4 id: ffdbbf39c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年12月16日 21時
