可哀想な男主 ページ8
＊
トゥワイスにとってAとは、命の恩人である。
「なんだ、また飯食ってねぇのか、倒れちまうぞ。さっさとくたばれ！」
不用心にも鍵のかかっていない玄関を通り、ビニール袋を下げて入室したトゥワイスに、Aは見向きもしない。
ところどころペンキの剥がれたダイニングチェアに浅く腰掛け、虫に食われたカーテンの閉まった窓を見つめている。
前回トゥワイスが訪れたときから、Aの位置は一切変わっていなかった。
1週間分の食料だとテーブルの上に置いていったビニール袋からは、ナマモノの腐った鼻につく臭いが漂っている。「うええ」と舌を出しながらトゥワイスは手早く袋の口を結んだ。
その間も今年で13になる少年は染みを見つめている。
やっぱり、3日にいっぺんは様子を見に来て、一緒に飯を食ってやらなきゃダメだなこりゃ。ほっそりとしたAの足首を見てトゥワイスは思った(彼の足首から得られた情報は見た通りではないけれど)。
「ほら、メロンパン買ってきたから食おうぜ」
「……」
「……」
「……」
「…………ったく、返事くらいしろよな！別にいいけどよ！」
痺れを切らしたトゥワイスは袋からメロンパンを取り出して包装紙を剥ぐ。適当な大きさにちぎって、指でこじ開けたAの口内にパンを押し込む。
そうしてようやく、Aは瞬きと呼吸以外の行動をしてくれたのだった。
Aの瞳がトゥワイスに向けられたが、仄暗いそれに己が映っていないことを知っていた。
食事も睡眠も必要ないAの時間は3年前から止まっている。
代々一神教のひとつを信仰する家に末子として生まれたAは、いまいち周囲の勢いに乗り切れないながらも、何よりも家族を愛していた。
家族のためならば泥水でも啜れると言い切った幼い彼の真剣な眼差しを今でも覚えている。
不運に不運が重なって地獄へと真っ逆さまに転落した仁を拾ってくれたのも、慈悲深いAの家族だった。
疫病神とまで言われた仁を、彼らは「神は彼の方だけだ」と埃を払うような手つきで、仁の枷を外してくれた。
優しく、時に厳しく愛されて育ったAは幸せだった。
いつか訪れる最後の審判に備え、彼らが揃って昇るために「誰もが幸せな楽園をつくるから、仁さん見ててよ」と自信ありげに笑った幼い子供は、しかし、ヴィランの犯罪に巻き込まれて家族を喪った。
仁はその場にいなかったが、個性で半分不死の体となったAだけが生き残ったと後から聞いた。
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緑猫(プロフ) - しらないさん» ご返信が大変遅れました…！申し訳ないです！コメントありがとうございます！！思いついたときにこそこそ書き溜めていけたらと考えております＾＾ (2021年12月29日 0時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
しらない - 面白い。好き (2021年12月22日 14時) (レス) @page4 id: ffdbbf39c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年12月16日 21時
