赤髪の氷使い ページ17
＊
忌引き明け、初めての登学。
すっかり空っぽになったこころを抱いて、Aは教室に入った。
なんとなく後ろの扉をガラガラとスライドさせると、音に反応した1番近い席のクラスメイトと目が合う。彼はハッと目を見開いて、それから気まずそうに席を立った。
「…大丈夫？」
中身のない在り来りな言葉。Aには予め用意された台本を暗記することもせずに、ただただ読んでいるだけにしか思えなかった。
教室内は静かではなかったのに、それでもクラス中の意識がAと声をかけてきた男子生徒に向く。
ああ、Aは理解した。きっとAが休んでいる間に先生か誰かが言い回ったのだろう。
気を遣ってあげなさいね。兄弟が亡くなったんだから。当たり前だ。教師とは生徒を正しく導く立場にある。でも、ならば、なぜそうした学生生活を送ってきたはずの父親は父親たる人物でなかったのだろう。
換気のために開けられた窓から乾燥した空気が入ってくる。身に染みる寒さだ。氷結の個性を持つAだが、父親の体質を受け継いだため、その実冷えに弱い。
つい先日までは、肩の触れ合う距離に体温を分け合える片割れがいたのだけれど。
ヒュッと腹の奥底が凍えて、Aは自分がどこに立っているのか、瞬きの間だけ分からなくなってしまった。
「うん、大丈夫。みんなもありがとね」
アイツ元気だったからさあ、教室が静かだと俺までおかしくなっちゃうよ。
暗におかしな気遣いをするなと伝えると、クラスメイトたちはホッとしたような、可哀想なものを見るような、ごちゃまぜの雰囲気を放った。
「燈矢くんって元気なタイプだったっけ？」
「あ、そっか。学校では大人しいね」
「そうなんだ」
「おう」
いまいちキレの悪い会話も時と共に元に戻ってしまうのだろう。Aにはそんな確信があった。
13年という短い時間しか過ごせなかった哀れな少年としてすらも、人々の記憶に残らないような片割れの存在をAは悔しいと思った。哀しいと思った。腹が立つ思いがした。
だって、燈矢もAも期待に応えたかっただけなのだ。
どうしてAたちが生まれたのか、エンデヴァーが何を望んでいるのか、何をすればいいのか。ぜんぶ分かっていたのだ。
ふたりでNo.1ヒーローになることは燈矢とAの夢だが、それ以前にエンデヴァーから課せられた義務でもあった。
ぎゅうう。火傷跡の残った左手を握りしめる。
このとき既に、Aの覚悟は決まっていた。
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緑猫(プロフ) - しらないさん» ご返信が大変遅れました…！申し訳ないです！コメントありがとうございます！！思いついたときにこそこそ書き溜めていけたらと考えております＾＾ (2021年12月29日 0時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
しらない - 面白い。好き (2021年12月22日 14時) (レス) @page4 id: ffdbbf39c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年12月16日 21時
