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オールマイトに妻がいたことは、限られたごく少数しか知らない話である。
過去形から分かるように現在の八木に妻はいない。
八木との第1子を身篭り、いざ出産という場面で過去の子宮の手術が原因で子宮破裂を起こしてしまったのだ。オールマイトとしての活動中に緊急連絡を受けた八木が病院に到着したときには、既に妻子共に帰らぬ人となっていた。
母体の死亡率は極めて低いはずだがと最善を尽くしてくれたのだろう医者たちにまともな言葉も返せず、八木は同棲していた家に帰った。
待望の子供が男の子だと分かり気が早いと妻や周囲に笑われながら買い揃えた青色のベビー用品も、子供が怪我をしないように念入りに片付けたリビングも、すべてがガラクタとなった。
目に入るすべてが腹立たしくて、悔しくて、虚しくて、八木はその晩だけ平和の象徴であることをやめた。
象徴を保ちきれなかった八木は、しかし翌日には仕事に復帰する。
なぜならオールマイトは国中から愛されるヒーローだから。救けを呼ぶ声が聞こえる限り、オールマイトは駆けなければならない。
それがヒーローである己を信じて許してくれた亡き妻と、抱いてやれなかった息子への弔いだと信じて。
「それからもうひとつ…こっちのほうが君への嫌がらせになるかな？」
林間合宿にて攫われた爆豪を救出するために急遽組まれたチームアップの果て、オールマイトはAFOと向き合っていた。
そこで告げられたのは、死柄木が師匠の孫だという事実。ジョークだと笑い飛ばせずとも、何とか嘘だと否定を口に出せたオールマイトだったが、次いで出た言葉に息が止まった。
「さっき君が殴り飛ばした少年の名は"八木A"。君の実の息子さ」
「………は」
「1度も抱いたことがないんだろう？良かったじゃないか、初のスキンシップだぜ。お父さん」
「なに、を」
「なかなかにバイオレンスだったけど、心配する必要はない。Aにとってはあれくらいどうってことないからね……あ、もちろん、僕たちが彼に躾をしているわけじゃあないよ。彼は与える側だ」
ペラペラとよく回る口が伝える残酷な現実。
確かに先程、オールマイトは死柄木を沈めようとして、それを庇った少年を殴り飛ばした。それが、なんだって？己の息子？冗談じゃない。嘘でも許されない話だ。
だが、八木に妻子がいたことを知るのはごくごく少人数。世間にも公表していない八木の息子の存在を、なぜ巨悪が。
八木は目の前が遠くなる気がした。
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緑猫(プロフ) - しらないさん» ご返信が大変遅れました…！申し訳ないです！コメントありがとうございます！！思いついたときにこそこそ書き溜めていけたらと考えております＾＾ (2021年12月29日 0時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
しらない - 面白い。好き (2021年12月22日 14時) (レス) @page4 id: ffdbbf39c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年12月16日 21時
