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「あの、神山さん?」
どんどん遠くなってしまう背中を追いかけていくうちに、気がついた。
多分彼が向かってるのは――レジ方向。
「……!? え!?」
頭で理解した頃にはもう遅かった。
神山さんは、私より一足先に、くまちゃんの巾着袋を購入してしまったのだ。
秒速で会計を終え、タグにテープをつけた状態のその子を、神山さんが抱えて。
彼はこちらまで駆け寄ってくる。
神「はい。森川さんに、プレゼント」
神山さんはそう言って、私の手にくまちゃんを握らせた。
「……!? は、はい!? なんで!?」
神「え、逆になんでそんな驚くん」
「お、驚くに決まってますよね…!? 私てっきり、神山さんがこのままくまちゃんを自分のものにするのかと、」
神「いや、この流れで、んなことするわけないやん!?(笑)
森川さんがめちゃくちゃ欲しそうにしとったから、俺がプレゼントしたくなっただけよ」
神山さんははにかんだ後、「あ、本格的に時間やばそーやわ」と言って。
神「なあ、バス戻ろ。このままやと俺ら置いてかれてまうで」
「あの、本当にいいんですか? 私お金払います!」
神「いやいや、後輩に先に金払っといて、後でせびる先輩がどこにおんねん。
俺の気持ちやから、な? もらっとき」
神山さんは、くまちゃんをもつ私の手を上からぎゅっと包み込んで。
「な?」ともう一度、優しく念押すように、私と目線を合わせて言った。
「っ……」
嘘でしょ。
私今日……神山さんの優しさにときめかされすぎて、死ぬかもしれません。
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作者名:mili | 作成日時:2023年1月5日 21時