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せっかくの重岡さんの気遣いを無下にしてしまって、ちょっと落ち込み気味だったとき。
女1「ねーねー、神ちゃんまだ来てなくない？」
男1「あー確かに。あと5分なのにね」
集合時刻の5分前。
近くのベンチで座る男女から、聞こえてきた会話。
彼らもまた、『全音会』のメンバーだろう。
どこの団体所属かはわからないけど。
……ていうか
(『神ちゃん』って、誰だっけ)
早朝の冷気に身を縮こまらせながら、聞こえてきた『神ちゃん』という名前にぼんやりと思考をめぐらせる。
全音会の集まりには、積極的に顔を出している方だ。
それでも、私が親しくなれた人はほんの僅かだし、
このサークルでしっかり会話をしたことがあるのなんて、重岡さんくらいだろう(そもそも、重岡さんさえ親しい人とカウントしていいのかわからない)。
もう十二月なのに、私の知らない名前が多いな……。
？「ごめん！ おまたせ」
思考に耽っていたら、とても綺麗な声が聞こえて。
思わずそちらを振り返る。
女1「神ちゃん遅いよ〜！ 寝坊でもしたの？」
神「ちゃうよ、電車遅れててん」
男1「あー、そういやJR線ちょっと遅れてたよな」
その人が来ると、ベンチに座っていた男女は、『神ちゃん』さんの元まであっという間に近寄った。
視線が奪われる。
その場の音も全て止まって、私の神経のすべてが彼に注がれた。
(わ、……)
朝日に照らされた金髪。
耳に無数にあけられたピアス。
猫のようにくりっとした瞳に、長い睫毛。
小さな唇は緩く持ち上がって、優しく笑っていた。
言葉にし切れないくらい、素敵な人だった。
重「もーりちゃん」
「！？」
また後ろから肩を叩かれ、慌てて振り返る。
そこには、ニヤニヤ顔の重岡さん。
片手には、小ぶりのミルクティーのペットボトル。
重「はいこれ。森ちゃんにあげる」
「えっ、」
重「さっき一緒に来てくれへんかったから、代わりに俺が買ってきた」
「は……はあ……？」
掴みどころのない言葉に、首を傾げる。
動揺してる私と、奥の『神ちゃん』さんの顔を交互に見やった重岡さんは、
ふふーん、と、さらにニヤニヤ顔になって。
重「ああいうのがタイプやねんな？
耳まで真っ赤っ赤やで、森ちゃん」
悪戯っぽく告げた重岡さんの人差し指が、ぷすっ、と私の頬に刺さって。
呆然とする私の手にペットボトルを握らせた重岡さんは、またどこかへ行ってしまった。
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作者名：mili | 作成日時：2023年1月5日 21時
