じんわりと、ゆっくりと。《緑》 (ページ18)

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あっという間に時間が経って、合宿は二日目。

残念なことに、昨日の交流会ではあまり参加者の人たちと喋れなかった。

勇気を出して、神山先輩に話しかけに行くことも考えたけど、

人気者の彼の周りには常に人がいて、私が輪に入っていけそうなタイミングはなかったから。

重岡さんだけは、やっぱり話しかけにきてくれたけど。

相変わらず顔も上手く見れずに、彼の言葉に相槌を繰り返すだけで終わってしまった。

(はあ……何も成長してないじゃん私……)

合宿１日目は、結局のところ箏の練習に打ち込むだけで終わってしまった気がする。

勿体無いことしたな……。

(……いや。そうでもないか)

肩から斜めに下げたショルダーバッグの、金具部分に取り付けられたモフモフの物体。

口元を綻ばせながら、私はその子を撫でた。

その子は、昨日神山さんが私にくれたプレゼントだ。

勇気を出して、神山さんとの会話を続けようとしなかったら、得られなかった経験。形に残らなかったもの。

(ていうか、私がすごかったんじゃなくて、神山さんが優しかっただけなんだけど)

くまちゃんを一回、二回、と撫でるたび、優しい手触りに心がホカホカと温まっていく。

この先この子を撫でるたび、神山さんとの、あのささやかで幸せな数分間の会話のことを、

いつだって思い出せるんだろうな、って。

想像したら、あの一瞬一瞬が本当に尊いことのように思えた。

(大事にしよう)

人の優しさを感じられた思い出は、今日や明日、その先ずっと続いていく日々を生きるための、自信や勇気になる。

人を救えるのは人でしかない。

人が生み出す、音楽なるものも、もちろん同様に。

さて二日目は、合宿参加者全員で近くの遊園地に行く。

カバンに括り付けたくまちゃんを揺らして、私は移動用のバスに乗り込んだ。