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*
サービスエリアを出発し、高速道路を降りて、
バスはついに宿へ到着した。
重「みんな楽器下ろすの手伝って〜」
「「「はーい」」」
重岡さんは、誰よりも先にバスを降りてトランクからみんなの荷物を運んでくれた。
(重岡さん、よく周りを見ていらっしゃる……)
そして、そんな重岡さんの隣で。
神「はい、これ」
女3「神ちゃんありがと!」
神山さんも、同じようにみんなの荷物をトランクから運び出してくれていた。
なんて気の利く先輩方なんだ……。
少し遠くからその様子を見守ったのち、私も彼らの元へ近づいていく。
重「はい、これ、森ちゃんの」
重岡さんは、私の楽器——箏を、外に出してくれた。
両手で受け取って、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとう、ございます……」
自分より幾分背の高い箏ケースを抱えて、私は宿へ行った。
神「……」
重「神ちゃん。なーにガン見しとん」
神「! ……ガン見なんて、してへんよ」
重「しとるやないかーい!」
*
楽器や荷物の運び出しが終わってからは、自由時間だった。
みんな、誰かと話すなり散歩に出かけるなり、好きなことをして時間を潰していたけど。
特にすることもない私は、一人ホールで箏を広げて練習する。
(どうせ……気兼ねなくお喋りできる相手もいないし)
夜になれば、交流会がある。
誰かと話す練習は……そこでできれば合格でしょう。
今は楽器練習の時間だと割り切り、毛氈を広げて、琴台を置いて。
私は、箏の演奏にしばらくのめり込んだ。
「……」
箏用の爪を付けた指で、楽譜の記す弦をはじいたり。
反対の手で、
時に両手の指の腹で、すべての弦を撫でるようにして音を立てたり。
箏にしか出せないこの音色が好きだ。
箏でしか味わえないこの響きが好きだ。
私は、箏を愛している。
強いては音楽そのものが生み出す力を、心の底から信じている。
神「……」
ホールの扉の外側から、こちらを見つめていた一つの影に。
この時の私は、当然気づくはずもなく。
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作者名:mili | 作成日時:2023年1月5日 21時