じんわりと、ゆっくりと。《緑》 (ページ13)

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13*side 緑ページ13

それからまたしばらく日が空いて。

今日は、全音会が毎年開催してる冬合宿の初日だった。

この合宿は、毎年俺が楽しみにしとる行事の一つ。

山梨行ける機会なんてそうそう無いし、普段知らない全音会の子たちとも交流を深められるし。

俺と同学年の幹事の子たちが頑張って企画してくれてるから、可能な限り色んな面で俺も協力できたらと思うとる。

早朝、都庁前に集った参加者たちは、一斉にバスに乗り込んだ。

車内はずっと賑やかで、バスが走り始めてしばらく経った頃には、しげが皆にマイクを回し始めた。

曰く、全員自己紹介して欲しいとのこと。

三年になってからあんまり顔出せてなかったせいもあるのか、俺の知らない子が多かった。

特に一年生なんて、初対面の子しかおらんかったのとちゃう。

二年生の顔と名前でさえ、ちょっと曖昧。

同級生と一個上の先輩たちは、流石によう覚えとるけど。

マイクはどんどん回されて、ついに俺の一個前の席まで回った。

「T女子大、箏曲部『久遠会(くおんかい)』、一年の……

も、森川A……です。

楽器は、こっ、箏……今回の合宿では、十七弦、やります」

一個前の席の子は、まあまあの緊張しいさんみたいやった。

神「(おお……大丈夫かな)」

新入生で、あんまりこういう集まりとか来てへんのかな。

緊張してまうよね。

車内後方から、「森ちゃん頑張れ〜〜」と聞こえた。しげの声や。

やけど、パニック状態の彼女にはその応援も届かんかったらしい。

「み、みなさんと……頑張って、話したい、です。

よろしく、お願いします……」

スピーカーから流れてくる音声と、前から直接聞こえる震え声が重なった。