12*side 緑 ページ12
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しげとは、全音会を通して知り合った。
俺が一年のときにあいつは二年。
俺にとっては先輩やから、当初はあいつのこと他人行儀に「重岡さん」なんて呼んで、敬語も使っててんけど。
不思議と波長が合う俺たちの間に、気づけばそんなもんはなくなっていった。
しげも俺と同じく、バンド所属でボーカル担当。
何かの機会でしげと会うたび、時間も忘れ、大抵音楽の話で盛り上がってる。
出会いから時は流れ、俺は三年生に、しげは四年生になった。
四年生で早々に就活を終えたしげは、今までと変わらないペースで全音会の集まりに顔を出してくれている。
そんなある日——確か、全音会が年度始めにやる定期演奏会後の、飲みのとき。
用事があって演奏会に参加できなかった俺は、その夜行われた飲みにだけ顔を出していた。
俺が来るなりあっちゅー間に近寄ってきたしげは、顔を赤らめて機嫌良さげに話を切り出した。
酒弱い俺は、水を飲みながら彼の話を聞く。
重「神ちゃん、俺今日な、おもろい子見つけたで」
神「? なんやおもろい子て」
重「ほらあの子」
しげが目を向けた先は、ぎゃあぎゃあと盛り上がる部屋の奥。
すると、長テーブルの一番端に、正座で縮こまってる女の子がおった。
神「ワンピース姿で、正座しとるあの子?」
重「そーそー」
見ない顔や。新入生かな。
神「あの子の、何が面白かってん?」
重「ギャップ」
神「ギャップ?」
おうむ返しする俺に、しげはにいと笑った。
重「今日の定演さ、神ちゃん来れへんかったやろ?」
神「そやけど……」
重「あの子まだ一年生やのに、たったひとりで舞台に上がって箏演奏しててん。
振袖着て、堂々とした態度で、圧巻やった」
堂々とした態度。圧巻。
かなりの褒めようや。
……せやけど。
隅で縮こまって、誰かに話しかけられるたび肩震わせて。
さながら、獣の群れの中に一匹放り込まれた小動物のように、萎縮してるその子が。
しげが認めるくらいに凄い演奏をしとった……って。
神「それ……ほんまに言うてる?」
重「言うてる言うてる、だからおもろいんやんか!
あのオーラで演奏した後にアレやで? ギャップ半端ないやろ」
神「……」
もう一度彼女を見てみる。
自信なさげに俯くその姿からじゃ、やっぱり、しげの言うオーラみたいなもんは感じ取れへんかった。
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作者名:mili | 作成日時:2023年1月5日 21時