【派生作品】赫曦 (ページ3)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:269 hit

＊ページ3

さてはて、アリスの裁判とはこのようなものだったのだろうか。

「おいッッ、これはどういうことだ……？！はやくッ、早く騎士団のやつを、赤の奴らを呼べッッ！！！！」
「皆様は早く避難を……！危険なビーストが現れました、城内の地下通路に避難をしてください！」

ワルツが不協和音を生み出している。騒ぎに駆けつけてみれば、そこに居たのは大きなニワトリの化け物だった。暴れ回り、駆け回り、天井のシャンデリアがぐわんぐわんと振り子の要領で揺れ動いていた。
この世界では、そういうことをする怪物を、ビーストと呼称する。そのビーストが咥えていたのは、見覚えのある白の手袋。
やはり(・・・)か。この屋敷のご令嬢は、今確か、ご趣味の小旅行に出かけているはず。それに彼女は、あんな子供騙しで喜ぶ女ではない。おおかた、変装の上手いビーストを潜入させた、というところか。

ポールは、俯く。ため息を吐いた。だから、この仕事はこりごりなんだ。
俺はビーストを殺したくねぇっつってんのに。

「ねえ、聞いて！美しいって、彼はそう言ってくれたわ！だから、だからねェェ、きっとアタシの手だって取ってくれるはずだワ───────！」

「ネエッ王子様ァ、アタシの手をとってよ……！」

キィン、と響くような声で鳴いた雌鶏は、風を切ってポールの方へ駆けてくる。同時に、俯いていたポールが───────剣を、握った。
顔を上げる。雌鶏が、ヒュ、と息を呑む。
それは、拒絶だった。それは、排他的な敵意であった。

「穢らわしい」

あまりにも、無惨に。ポールはその剣で、その首を思いっきり切った。
鮮血が飛び散り、床にボトボト、と零れ落ちる。千切り取るように、首を落とした。ア゛、と声を上げたっきり、その鳥は嘴を動かさなくなる。
赤が、溢れる。鉄の匂いが満ちる。静けさが、広い城にこだました。

返り血を被ったそのままで、ポールはにっこりと笑う。
後ろに、震える女性がいると気付いていたからだ。安心させなければと近づいて、朗々と口にした。

「やあ、せせらぎのように素敵なリリー。お怪我はございませんか？」

無情や、無情。何故なら、当然であるからして。血を恐れながら、嫌いながらも、どこか寝慣れているようなそれは。
ああ、それはまるで、われらの恐るる獣のようで。