囀 ページ1
恋って、とんでもないものですわ。
ええ、そう。そうなのよ。振ったの。まさかと思ったわよね、実はわたしもそう思ったの。でもね、いいんです。 構わないことにしましたわ。だって、思ってる以上に、どうしようもない男だったみたいでしたから。
捕まらないだけ、正解だったかもしれないもの。
そう、そう、あの方の話ね。あの方、……ポールは、毎週わたしから聞いてたあなたならご存じでしょうけれど、紳士的で女の子に優しくて、すごく魅力的なの。記念日にはわたしに似合う豪奢な贈り物で、お食事には普段からは想像もつかないくらい上品な身なりで、もてなしてくださって。ええ、それはそれは充実した時間だったわ。
けどねえ、ほら、わたし、髪を切ったじゃない? しばらく伸ばしていたから、そろそろ切ってしまおうと思って、バッサリ。自分でも似合うと思っていたのだけれど……ポールったら、血相を変えて、激昂するのよ。
“ 俺の何が悪かったんだ?! どうして切ってしまったんだ!!”
“ 君の美しさはそれで終わってしまうものだったのか?!”……って。
あなたも今思ったでしょう?「それ、今言うこと?」って!
そういうことよ。ポールって、美しい人が好きなんじゃないの。美しい人の中にある、ちょっと背伸びした虚栄心が大好きなの。似合わないくらい背伸びした人の綻びを掬い取りたいだけなのよ。
ああ、そこで気づいたわ、あの人に抱いていた違和感に。どうしてあの人はいつも、どこか宙ぶらりんなのか。
だってあの人、わたしの名前を一度だって呼んだことがなかったのです。これはわたしの予想よ、あるいは女のカンとも言えるかも。
きっとあの人が追っているのは、好きだった女の子の面影に過ぎないの。
ああそう、わたしが言いたいのは、ポール・イヴェールってのは本当〜〜ホンッット〜〜に、碌でも無い男だってこと!
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