83話 ページ50
信号が青になって、車はゆっくりと右へと曲がる。
私が無言で戸崎さんからの言葉を待っていると、彼女から出た言葉は思いも寄らないものだった。
「誤解しないで。心配してたって言うのは本当にあんたの性格や環境についてで恋愛に発展するからって事じゃない。…まぁ実際発展したわけだけど」
「……はい」
「別にね、いいよ。三浦くんとのこと」
「え」
まさかマネージャーの戸崎さんからそんな事を言われると思わなくて私は目を見開く。深夜の都内は車もまばらで戸崎さんはぎゅっとアクセルを踏む。窓の外の景色はどんどん速くなっていく。
「ただね、あんた達の年齢は今1番大事な時期なのは確か。若気の至りで何か月かで関係がおしまいって事もある。そういった時に仲良かった期間の写真が流れたり何したりとか無いわけじゃない」
「…はい」
「だから彼との付き合い方も、交友関係もちゃんと気を付ける事。それと、」
戸崎さんは一呼吸おいてまた話す。
「いいよって言ったけど条件がある。これが守れなければ、A。三浦くんの事はすっぱり諦めて、別れること」
「っえ、」
「シンプルだよ。参騎をきちんと成功させること。これは勿論A1人でどうにかなるものじゃないけど」
「は、い」
恐る恐る頷くと、戸崎さんは真剣な口調で話を続ける。手が冷たい。本番前と変わらない緊張感が私を襲った。
「中途半端に気持ちを引きずって公私混同で、良い仕事を出来ないようじゃプロ失格」
「……！」
「特に次の役は高野くんと三浦くん演じる兄弟の母親役。ただの女の優しいと、母親の優しいは全然違う」
中途半端な演技は芝居を「嘘」にする、と戸崎さんは言った。
勿論お芝居は嘘なんだけど、嘘だと感じてしまわれるのは私の目指しているお芝居じゃない。
「Aは2人より年下。普通にしてるだけじゃ2人と並んでも母親には見えない。そういう違和感をお客さんは見逃さない」
「…うん」
「女の子1人は良くも悪くも目立つ。観てる人も大概が女性。Aの弱みを、至らなさをお客さんは見てる。だから、……辛い事言うかもしれないけど、そんな目の良いお客さん達や演出家、そして私が満足出来る出来じゃなかったら」
戸崎さんのハンドルを握りしめる音が聞こえる。皮を巻き込むような音はぎりぎりという音で、私も無意識に胸元をぎゅっと掴んだ。
「Aには三浦くんとの恋を諦めて貰う」
手は冷たいどころか痺れて、もう感覚もよくわからなくなっていた。
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emer(プロフ) - ジゼルさん» ご感想ありがとうございます！とても嬉しいです〜！初小説で拙いですがご感想励みに頑張ります…！ (2020年4月21日 23時) (
レス) id: a9775c7f67 (このIDを非表示/違反報告)
ジゼル - 凄く面白いです！！！夢中で読んでしまいました(*´ω｀*)ご無理せず更新頑張ってください！！！ (2020年4月21日 1時) (レス) id: a4f4dbe6ea (このIDを非表示/違反報告)
emer(プロフ) - 晴菜さん» いつもありがとうございます。続編も程々に頑張ります！ (2019年11月3日 20時) (レス) id: cd93ae58f2 (このIDを非表示/違反報告)
晴菜 - 続き楽しみにしています！無理せず頑張って下さい！ (2019年11月3日 1時) (レス) id: 3c5af7941e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：emer | 作成日時：2019年10月31日 23時
