82話 ページ49
宏規くんが観に来てくれた日は、ソワレが終わった後で雑誌の撮影があった私の1日は随分長かった。撮影している間も宏規くんの言った言葉は離れなかった。
『参騎は真正面から"俺"を見て』
連続するシャッター音。撮影用アンブレラの群れに銀板。下からドライヤで吹き付ける人工的な風。強烈なフラッシュの光。同じ服、1度の撮影でいくつものポーズや表情を決める様は多分舞台での見せ方でも役に立っているとは思う。
「はい次！恋する女の子の表情！！好きな子見つめてる甘い感じくださーい」
(甘い感じ、ってどんなだ。こんな？……あ、あってたらしい嬉しそう。…あれ、)
カメラマンさんの望むとおりのポーズや表情で撮っている間、その後ろで戸崎さんがじっと此方を見ていた。撮影が終わった後、車のキーをちゃりちゃり鳴らして「送ってく」と戸崎さんは私に笑いかけて、なんだ。なんかいつもと雰囲気違うなと思ったけど気のせいか――と私は安堵した。
*
すっかり日付も変った深夜。
戸崎さんと遅い夜ご飯を食べてから車に乗りこむ。特に会話も無くぼーっと窓の外の流れる景色を見ていると、戸崎さんから声を掛けられる。
「Aさぁ、三浦くんと付き合ってるでしょ」
「……うん、…うん！？え！？な、なんで！？急に」
「あのねぇ。何年Aと一緒にいると思ってんの。上京する前のスカウトの時からだよ？マネージャー舐めんじゃない」
取り繕うよりも先に戸崎さんは飽きれた様子でミラー越しに後部座席にいる私を見た。信号が赤で車は止まって、右折する為に出されたウィンカーがかちかち鳴る音がやけにうるさく感じる。
「Aの受けてきた仕事って殆どは結構自分1人で完結してたじゃない。モデルにしろダンスにしろ。厳密に言えば1人じゃないけど、あんたって人見知りで輪広げるタイプじゃないし」
「……うん」
「だからまぁ刀ミュはね、ちょっと心配だった。男所帯だし、人見知りのあんたが上手くやってけるかなって。でも一生懸命歌の練習して1度は傷ついて声が出せるようになったAの、これ以上ない晴れ舞台だなっても思ってた」
会社からすれば私は商品だ。冷たい言い方かもしれないけど実際にそう。私が仕事をする時、私にとっても私の身体は楽器になったりマネキンになったりする仕事道具。
だからその道具に傷がついちゃいけない。特に私、「私達」みたいに若い「商品」は皆そう。やっぱり、戸崎さんからしてみたら宏規くんの事は――とぎゅっと拳を握った。
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emer(プロフ) - ジゼルさん» ご感想ありがとうございます！とても嬉しいです〜！初小説で拙いですがご感想励みに頑張ります…！ (2020年4月21日 23時) (
レス) id: a9775c7f67 (このIDを非表示/違反報告)
ジゼル - 凄く面白いです！！！夢中で読んでしまいました(*´ω｀*)ご無理せず更新頑張ってください！！！ (2020年4月21日 1時) (レス) id: a4f4dbe6ea (このIDを非表示/違反報告)
emer(プロフ) - 晴菜さん» いつもありがとうございます。続編も程々に頑張ります！ (2019年11月3日 20時) (レス) id: cd93ae58f2 (このIDを非表示/違反報告)
晴菜 - 続き楽しみにしています！無理せず頑張って下さい！ (2019年11月3日 1時) (レス) id: 3c5af7941e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：emer | 作成日時：2019年10月31日 23時
