75話 ページ41
豪華客船に乗り込むご令嬢をやったかと思えば、次は2人の子を持つ平安時代の母になって、刀の神様になる。
自分以外の誰かになる事は、内気で人見知りだった私にとって最高の仕事だった。
小さい時は今より全然人と話せなくてよく「違う誰かになりたい」って憧れていたのを思い出す。
「とはいえ一朝一夕で上手くいくわけもなく」
本番をこなしながら参騎の台本を読み込む。自分以外の誰かになると言う事は「偽る」「装う」ということ。
いつかに恋をする役に具体性がないと言われたみたいに「母」というのは、なった事が無い。なってみようで経験できるものでもない。
「ご来場いただき誠にありがとうございました！」
座長の元気良い挨拶で締めくくられたエニシング・ゴーズのカーテンコールの後、鞄からちらりと顔を覗かせる台本に私は溜息を吐く。
「A〜！お客さん」
「え？誰だろ」
手早く厚化粧を落として着替えて面会場所に行くと、ふわふわと柔らかな黒髪を跳ねさせた長身の男の人が立っていた。
「サプラーイズ。驚いた？」
「麻璃央くん！えっ！？」
「実はちょっとした伝手で内緒でチケット貰ってた。Aコメディも嵌るな〜」
「本当？なんか麻璃央くんに言われると嬉しい…ふふ」
思わずにやけて照れ笑いが出てしまうと、麻璃央くんは嬉しそうに笑った。
「もう恋愛物への苦手意識も克服したんだ。おめでと。参騎も観に行くから」
「三日月様に見守って貰えるなんて心強いです」
「ははっ！あ、ねぇこの後……が難しければ別に後日でもいーんだけどちょっと時間ない？」
「？ いいよ。さすがにソワレの後は何もないし」
じゃあ決まりだって言って笑う彼は、とってもスマートで刀剣の稽古中も私や宏規くん達をサポートしてくれた先輩の顔をしていた。
他の皆ともしばらく会っていない。今となっては皆舞台だけじゃなくてドラマなんかの映像方面に出ている人も少なくない。
この業界でよく「一期一会」なんて言葉を持ち出す人も少なくない。それは何処に行ってもそうだけど、こういう時によく感じる。
映像と違って舞台は長い時間を共有する。ずっと一緒にいられる気がする。でも、そうじゃない。
特に若手は皆そこから巣立って次に進む事が多い。
「お待たせしちゃうけどごめんね」
「ぜーんぜん。待ってます」
麻璃央くんはひらひらと手を振って笑ってる。
話ってなんだろうなぁ？と思いながら、いつものメイクに直して靴を履き返る。
宏規くんが買ってくれた靴だ。
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emer(プロフ) - ジゼルさん» ご感想ありがとうございます！とても嬉しいです〜！初小説で拙いですがご感想励みに頑張ります…！ (2020年4月21日 23時) (
レス) id: a9775c7f67 (このIDを非表示/違反報告)
ジゼル - 凄く面白いです！！！夢中で読んでしまいました(*´ω｀*)ご無理せず更新頑張ってください！！！ (2020年4月21日 1時) (レス) id: a4f4dbe6ea (このIDを非表示/違反報告)
emer(プロフ) - 晴菜さん» いつもありがとうございます。続編も程々に頑張ります！ (2019年11月3日 20時) (レス) id: cd93ae58f2 (このIDを非表示/違反報告)
晴菜 - 続き楽しみにしています！無理せず頑張って下さい！ (2019年11月3日 1時) (レス) id: 3c5af7941e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：emer | 作成日時：2019年10月31日 23時
