69話 ページ32
考えたって自分の知っている以上の言葉なんて出てこない。気取って大人ぶった言葉なんて、誰の為にもならない。
聞いた以上、私の言葉で返さなくちゃ。そう思って、私はゆっくり深呼吸した。
「良い事だと思う」
「え？」
「悔しいって思える機会がある事も、そういう気持ちも、成長する為に大事な事だから。だから、宏規くんはもっと成長して素敵な人になるんだなぁって思う」
なんて安直な言葉。きっと気休めにもならない。でも、本心だった。
「私は役者として宏規くんの自分に自信ある所や容量の良さが羨ましい。私はこの道に進むまで怪我で遠回りしたし、人より何倍もやらないとダメな方だし」
「A、」
「正直そういうとこは役者としては嫉妬しちゃう。でも、同時に凄くかっこよくて好きな所」
「！」
そんな所に刀剣の現場でもたくさん刺激を貰ったし、元気も貰った。
有難い事に恋人同士だけど、仕事では嫉妬してしまうくらい素敵な役者さんだ。
「そんな宏規くんが悔しいって思ってやり切った舞台の後はさ、また自信いっぱいの素敵な三浦宏規になっちゃうのかぁって、困っちゃうくらい」
「……」
「いつも役者としての宏規くんは、私の前を歩いてて背中ばっかり見てるよ」
最年少で掴んだ大役。物怖じしない言動でいつだって立ち止まったりしない。
貴方に釣り合いたい、肩を並べたいと思っても全然振り向きもしないくらい、彼の成長は早かった。
ちょっとくらい立ち止まって振り返ってよって思うくらい。でも、ちっとも振り返らない彼が好きだ。
「私は宏規くんへの凄い、悔しいって気持ちで刀剣もいっぱい頑張ってこれた。自分の甘さも弱さも見つめ直せた。だから悪い事なんかじゃないよ」
「……うん」
「かっこ悪いことなんかじゃない。こんな事しか言えないけど、頑張って。私も追いつけるように頑張るから」
あれ、なんかこれ最後は私の決意表明になってるな？と思った所で、急にべらべらしゃべり出した自分に恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「ご、ごめんなんかいっぱい喋っちゃって。あの、忘れていいから！」
「忘れない」
「っ、え」
そう言って宏規くんは落ち着きなくカップを握る私の両手を自分の手で包み込んだ。相変わらず宏規くんの手は私より温かかった。
「絶対忘れんで死ぬ気で残りの稽古もやるし、本番もやり切る。だから、客席の正面から見とって」
それはきっとマリウスとしての生き様、彼の役者人生の在り方。
私は自然とそれに頷いた。
「勿論だよ」
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emer(プロフ) - ジゼルさん» ご感想ありがとうございます！とても嬉しいです〜！初小説で拙いですがご感想励みに頑張ります…！ (2020年4月21日 23時) (
レス) id: a9775c7f67 (このIDを非表示/違反報告)
ジゼル - 凄く面白いです！！！夢中で読んでしまいました(*´ω｀*)ご無理せず更新頑張ってください！！！ (2020年4月21日 1時) (レス) id: a4f4dbe6ea (このIDを非表示/違反報告)
emer(プロフ) - 晴菜さん» いつもありがとうございます。続編も程々に頑張ります！ (2019年11月3日 20時) (レス) id: cd93ae58f2 (このIDを非表示/違反報告)
晴菜 - 続き楽しみにしています！無理せず頑張って下さい！ (2019年11月3日 1時) (レス) id: 3c5af7941e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：emer | 作成日時：2019年10月31日 23時
