九輪 ページ9
『あの、沖矢さん。痛いので離してくれませんか?それに―』
「いつまで、彼のことを待ち続けるのですか?」
『……っは、』
言葉が喉につっかえた。
予想外の言葉に上手く口を動かせない。
『……なんで、知ってるんですか?』
いろいろな疑問が溢れかえる中、取り繕うヒマもなく口を突いて出たのは沖矢さんの問いを肯定するような言葉だった。
「それは、あなたが―」
『すみません。今日、体調が優れないので、手当をしたらお帰りいただいてもよろしいでしょうか』
有無をも言わせない圧をかけて、沖矢さんの手の力が緩んだ一瞬の隙をついて、手を振り払う。
そしてすぐにリビングの奥へと姿を消した。
何もかもわからずに、ただ無心で湿布を手に取って、そのまま玄関へと逆戻り。
未だに振り払われた手を見つめ続け、ぼうっとその場に立ち尽くしているのをいいことに、勝手に手当てをした後、ドアを一方的に閉めた。
直後10分ほど、携帯の着信が鳴りやまなかったが、無視を決め込んだ。
携帯の電源を落として、ソファに身を投げ出す。
(なんであんな事、言っちゃったんだ?
なんであんな肯定するようなこと……)
別に彼氏がいることを否定する必要もなかったわけだし、隠すこともない。
...でも、なんだか、あの言い方は癪に障った。早く忘れろ、と言われているみたいで嫌だった。
悪いか、死んだことが未だに信じられずに、ずっと待ち続けていては...いけないのか?早く、別な人でも見つけて忘れなきゃいけないのか??
なんだか、今日の沖矢さんは非常にむかついた。……腹立つ。
彼には悪気がないのはわかっている。……いつまでも帰ってきてくれない彼氏へのイライラが募りに募って、当たっただけ。ただの、八つ当たりにすぎない。...申し訳ないことをしたな、とは思っても謝る気が微塵もわかなかった。あれは、沖矢さんの言い方が悪い、それの一点張りで。
それにしても、何か知っているような物言いだった。……もしかして、彼と何らかの関係が?
でも、聞いたことがない。彼からも、沖矢さんからも。それに、そんな素振り今まで一度だって...あれ?降谷さんが沖矢さんを警戒している理由は?私に彼に近寄るなと言う理由は??……何かありそうだ。探偵にでも調べてもらうか。
そうと決まればさっそく行動だ。
沖矢さんには一応後で八つ当たりの件を謝るとして、さっそく探偵に電話を掛けた。
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