Zionの花束を17 (ページ7)

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忘れじの償い2 ページ7

「それってなんですか?」
青年はすがりつくように問いかけた。眼鏡はそこから、きちんと償う気があるらしいことを読み取り、安堵する。生きることを諦めたり、なげやりになっているようではないようだ。
「これは俺や顎髭のやつにもできることだ。けれど、君がやらねばならない意味というのもある」
青年は疑問符を浮かべながらも、続く言葉を待った。
「あの女性を忘れないということだ」
「忘れない……」
「そうだ」
墓参りに行き、顎髭に気づかされたことでもある。
何気なく、あのとき口にしたが、死んでからも誰かに覚えていてもらえる、誰かの人生の一部になれるということが、人間としてどれだけ栄誉なことか、今まで考えてもみなかった。それは眼鏡が別段誰かにそれを期待していなかったからだし、自分がそうするつもりもなかったからだ。
だが、他は違うだろう。眼鏡には顎髭の孤独もわからないし、惚れた腫れたの話など専門外だ。だが、わからないから、理解できないから、自分は関わらない、というほど無責任ではない。
事、この件に関しては、きちんと処理しなければならないと思った。最後の仕事として。
「彼女のことを決して忘れるな。彼女の想いを汲み取ったのなら、忘れてやるな。俺も顎髭も、いくら覚えていると言ったって、命数はたかが知れている。だから、君が一番、彼女を長く覚えていられるんだ」
結局、時間の長さが問題ではないのだが、これは方便だ。彼女は最後に自分の命すら手向けとするほど彼を愛した。それはきっと、この青年も同じだ。
今は方便で生きてくれていい。けれどいつか、自分の中の想いを糧に、彼女と演奏した思い出を愛することができたなら、彼女も報われ、彼も救われるときが来るだろう。
眼鏡はそう信じた。
「それだけで、いいんですか?」
「ああ。誰かが言っていたが……」
死んだあとも名前を覚えてくれる人がいたら、寂しくない、と。
友人からの受け売りの言葉を口にした。
「本当に、それで……」
しつこいな、と思って真っ直ぐ青年を見ると、彼は泣いていた。
「僕は愛してしまってもいいんですか? 手にかけた彼女を……」
「いいかどうかは知らないが……」
眼鏡は生前の歌手がピアニストを誇らしげに褒めていたことを思い出す。
殺されたその瞬間さえ、それは変わらなかった。
「本人がいいと言っていたのを、他人がどうこう言うのもな」
馬の足に蹴られて死にたくない、というと、青年は笑った。