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Zion最後の日4 ページ19

マスターが出してきたのは、黄身のところに薄い膜が張り、ほんわりとしたピンク色の目玉焼きだった。塩胡椒が振りかけてある。
「へえ、美味しそう」
普段はドライフルーツやナッツなど、無難なつまみしか見かけないので、「マスターの手作り」というのは物珍しかった。
眼鏡は何かを推し量るように目を細め、それから言い放つ。
「お前はこっち派なのか」
「ええ」
こっちとはどっちなのだろうか。
「こちらの方が熱伝導もよく、仕上がりが早く、安定した質で提供できますので。何か問題でも?」
「お前は料理にプライドはないのか!!」
突然激昂する眼鏡。顎髭は声を荒らげる眼鏡など初めて見たものだから、何か変なものでも口にしただろうか、と心配する。が、口にしているのは顎髭と同じワイン、同じつまみである。あの蟒蛇が顎髭より先に酔うとは考えにくいのだが。
「専門ではありませんので。食べる前から貶されれば、少々頭にくることはありますが」
マスターの笑み、笑えていない。目元と頬に寄った皺がぴくぴくと震えている。少々では済んでいないだろう。
ただ、顎髭は面白く感じたので、しばし放置してみることにした。
「では食べてみよう。いただきます」
「召し上がれ」
バチバチと散る火花が眩しい。せいぜい火傷しないように気をつけよう、と思いながら、顎髭は眼鏡に倣い、目玉焼きを食べることにした。
顎髭は目玉焼きの黄身を最初に崩して食べる主義なのだが、こういう論議はくだらなすぎてしたことがなかったな、と隣の眼鏡を見やった。
すると、眼鏡は躊躇なく黄身をナイフですぱんと切ってしまった。皿に汚れを残さない綺麗な食べ方をする印象がなんとなくあったので、思わず仰天してしまう。少なくとも、こんな豪快な割り方をするとは思わなんだ。
真っ二つに半月となってしまった目玉焼きは中がとろりと出るか出ないかの絶妙な具合の半熟で美味しそうだ。
「まあ、及第点だな」
「いや、どこから目線?」
思わず突っ込む。さっきから何故か眼鏡は偉そうだ。相手がマスターだからかもしれないが。
「少し塩が強い」
咀嚼してそう答える眼鏡。顎髭は酒と合わせるのだからこれくらい濃くても、と思ったのだが、眼鏡の指摘はまだまだ続いた。
「今日のボトルは繊細な香りで逸作と呼ばれたものだ。目玉焼きは卵の味が濃厚に黄身に集約される料理。それだけで充分今日のあてになる。塩胡椒はむしろない方がよかっただろう」
眼鏡はマスターを見上げた。
「お前、どうしたんだ?」

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作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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作者名:九JACK | 作成日時:2021年2月23日 7時

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