Zionの花束を17 (ページ11)

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元気で4 ページ11

宴会当日。今日は店を貸切で、昼はお茶会、夜は飲み会、と贅沢な日程で組んでもらっている。
「眼鏡さんお疲れさまです」
「お疲れさまです!!」
「おお、君、随分慕われてるねえ」
勢いのいい職員たちの挨拶に少し驚きながら、顎髭が眼鏡の肩を叩く。眼鏡はというと、「別に」と温度のない声で、案内されるままに席に向かっている。
何か気に食わないのかな、と思ったが、席に就いたところでわかった。
眼鏡と顎髭は隣同士なわけだが、眼鏡の反対隣には気難しそうなご婦人が座っている。
なるほど、と顎髭は納得すると同時、意外にも思った。こんな男でも、久々に再会する別れた妻の前では緊張するものなのだなあ、と。
ではそのなかなか見られない緊張しているところを肴に酒を飲もう。夜にだが。
「お久しぶりです、奥さん」
「……あら意外、長いこと交友関係が続いてらしたのですね」
ご婦人の一言は眼鏡と似た者同士だなあと感じさせるものだった。ただ、女性だからなのか、眼鏡の言葉より棘を感じる。
「なんとなく続いただけだ」
「そう」
「なんとなくってひどいなあ」
冷たいというか、釣れないというか。そんな言葉が眼鏡から飛び出して、顎髭はいつものように飄々としながら肩を竦めた。
といっても、30年の付き合いである。この発言が照れ隠しであることくらいはわかった。何を今更照れることがあるのだろうとは思ったが、たまに眼鏡の心というのは年頃の乙女より難解な場合があるので、そっとしておこう。
「倅たちは……」
「あそこの人だかりの中です。挨拶してらしたら?」
婦人が示したのは、会場入り口脇にできている人だかりである。「かわいい～」「何歳?」「好きなものは?」など、言葉がたくさん飛び交っている。主に女性の。
婦人は素っ気なく告げる。
「今まで顔の一つも見せなかったのですから、祖父らしく名乗り出てください」
「祖父らしく……」
「あはは、お孫さんがいるなんて、羨ましいなあ」
なんとか空気を和ませようとする顎髭の声も、この二人の前では虚しさを伴う。
家族がいるのはいいことだ、と思っているのは確かだ。難しい顔をさる眼鏡の背中をとん、と叩く。
「僕、子ども好きなんだよね。僕にも挨拶させてよ、ほら」
「あ、ああ」
目を白黒とさせ、右手と右足が一緒に出るレベルのぎこちなさで、眼鏡は人だかりに向かって歩き始めた。
その後ろに続いた顎髭であったが、くすくすと笑う声が聞こえて振り返る。
婦人が笑っていた。