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元気で2 ページ9

労いの宴会とは、これまでのことを労い合うための宴会。まさしく名前そのままである。
きっとお詫びコンサート中止の件について気に病むであろう眼鏡の性格も踏まえ、自分たちも感謝でき、眼鏡の気晴らしにもなる宴会という方法を選んだのだという。随分気端の回ることだ。
「だが、それで私が謝罪することに変わりはないのだが……」
「眼鏡さんから謝罪をいただきたいのではありません。この労いの宴会では費用は皆割り勘です。つまり、あなたにも支払っていただきます」
なるほど。そういう費用負担があれば、ほんの少しではあるが、謝罪の気持ちを込めることができる。実によく練られた案だ。
「この際、職場での上下関係を忘れて、皆と仲良く杯を交わすのも良いのではないでしょうか」
「そうだな。『上下関係を忘れて』という言葉がお前の口から出てくるのも珍しいし」
コーヒーカップを手に取り、くゆりとその香りを鼻で楽しむと、眼鏡は一口飲んだ。苦味の中でもコーヒーは好きなものだ。砂糖やミルクも用意されているが、眼鏡は手をつけなかった。そのままの味と香りを楽しむのが好きだからだ。
「それで、いつ開くんだ?」
「お詫びコンサートが開かれるはずだった日、ならいかがでしょう? ……そうすれば、眼鏡さんがまだ送付されていない招待状も無駄にはなりません」
「……昼から飲むのか?」
「昼はお茶会でもいいでしょう。息子さんにはお子さんもいらっしゃると伺いました。飲み会だけでは、お子さんも退屈でしょう」
そこまで考えていたのか、と眼鏡はいよいよ手を挙げた。文句のつけようがない。完敗である。
「なかなかやるようになったな」
「教え方が上手かったんですよ」
「どうだか」
ははは、と軽く笑えば、和やかな時の中を時計がちくたくと動いていた。
そうなると、招待状を一部書き直さなければならないが。
「そういえば、孫とは初めて会うんだよな……」
Zionにて、人目を気にせず作業ができるということで、招待状の書き直しをしていた。
「えー、君孫いたの?」
「倅の子どもだ。孫で間違いないだろう」
何か文句でもあるか、と顔に書いてある。そんな眼鏡に苦笑いを噛み殺しながら、顎髭が告げる。
「でもさあ、つまりは君が『おじいちゃん』と呼ばれるシーンに出会うってことじゃない? めでたいじゃん」
「めでたいか?」
「めでたいでしょう」
マスターが肯定したことにより、二対一でめでたくなった。

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作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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作者名:九JACK | 作成日時:2021年2月23日 7時

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