小さな種2 ページ15
子どものために作られたアスレチックパークで見たようなよじれによじれて滑れるのか怪しい滑り台。その珍妙さと軽快さを描き出すようなピアノの音色に、小肥りは目を見張った。
コンサートホールに勤めて、様々な演奏を聞いてきたが、このピアニストの演奏は空間のそこら中に蔦を張り巡らし、景観を自身の一部にしてしまう花のような威風堂々とした雰囲気があった。そこを駆け回り、蔦の上で滑って転んだり、蔦を掴まえてくるくる回って踊ったりする小さなピエロがいるよう。こんなくるくると愉快さを醸し出すピアノは初めて聞いた。上司が見出だした演奏者を何人も見てきたが、その誰よりも瑞々しく、誰よりも卓越していた。
そこにワインレッドのドレスをまとった歌手の女性がハミングを乗せていく。打ち合わせていたように、ピエロの着地点に現れたマジシャンが現れたよう。ハミングが魔法の呪文のように広がって、蔦に鮮やかな花を咲かせていく。そんな息の合った演奏だ。
「ふふふ、やはり、同じ業種なだけあって、後任くんもいい顔をするね」
自分の手柄であるかのように不敵に笑う顎髭に、眼鏡は自分がどう見えているのか気になったが、小肥りがいい顔をしている、というのは概ね同意だ。やはり、ここに連れてきたのは正解だった。
薔薇の花びらのようにあしらわれたワインレッドのドレスは女性を上品に艶やかに彩っていた。
その成長を促すかのように、青年はピアノのリズムで水を注ぐ。相性の良い二人、という眼鏡から聞いていた前評判に偽りはなかった。
「素敵な歌とピアノです……」
うっとりとしながらそう呟くと、三人の間にすっと一人の影が割り込んできた。
「本当に。あの二人が入ってから、店の売り上げがよくて、見つけてくださったことに感謝していますよ」
グラスを優雅に運んできたのは、店の雰囲気にそぐった気品を持つマスターだった。
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作者名：九JACK | 作成日時：2020年11月1日 22時
