キヨ『わたしとあなたの心中願望』パロディ作品 ページ9
彼はネットで知り合った青年だった。
ネットでのハンドルネームなんてただの記号のようなものにしか過ぎないのだけど、彼はその名に相応しい、清らかな容姿をしていた。
週のど真ん中、憂鬱な気分に苛まれる水曜日。わたしたちはバスに乗って埋立地に建つ遊園地へと出かけた。重たい枷みたいな制服のことなんてすっかり忘れて。
休演していないアトラクションを片っ端から観て、待ち時間ゼロ分のジェットコースターに繰り返し乗った。始めは怖い浮遊感も急降下も、二回か三回程ですぐに慣れた。
乗客疎らなコースターでのユニバースリープの合間に、グッズ売り場と券売機に挟まれて歪んだカフェに入って、わたしたちは相談した。
「練炭」
「なんか疲れたオトナくせえからやだ」
「硫化水素」
「地味じゃね」
アイスティーをストローで吸い上げながら、ポテトフライを三本まとめて頬張る彼を眺めた。
「電車で飛び込むのはどう？かっこよくない？」
「あー、アレって駅員が箒とちりとり持って来て、掃き出されて終わりだよ」
「え、マジで」
「マジ。内臓グッチャグチャで見れたもんじゃないし、もっといい方法にしようぜ」
わたしは、笑った彼を信じることにした。
そうしてわたしたちはバスに乗って団地へ行き、適当な棟を見繕って最上階へ上がった。日が傾いている。赤く色づく空に逆らうように、空気は青く澄み切っていた。
街灯に照らされて水みたいに光るその広場へ、わたしたちは、大海原をゆく眩しいイルカのように落ちていくのだ。
これで自由だ。
手すりを乗り越えた時、二人の手首を結んだベルトがするりと抜けた。日光を受けて、等間隔に並んだスタッズが輝いた。その中に、彼の指紋が鈍く残っている。
涼しく、精悍で、清らかな容姿とハンドルネームを持った彼は、どこにもいなかった。
あぁ、これまでも、これからもひとりなのだ。
友だちもいない、美しくないわたしは
わたしとあなたの心中願望
(だから、ふたりきりで逝きたかったの)
牛沢『夢と逃避行』暗めほのぼの(?)→←p-p『無彩色に融ける』パロディ作品
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やつがれ先輩(プロフ) - �擦気�» 初めまして。コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです！もっと楽しめる作品になるように精進します…。 (2017年8月25日 0時) (
レス) id: f68a99e668 (このIDを非表示/違反報告)
��(プロフ) - 貴方の文章から滲み出る雰囲気とか、独特の世界と言いますか、なんと言いますかすごい好きです。ひっそりと見てます……！ (2017年8月15日 0時) (レス) id: 97e51543ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やつがれ先輩 | 作成日時：2015年12月20日 1時
