2 ページ27
｢社会人にもなって、酒で遅刻すんのはないでしょ。ストレス溜まってんのは分かるけど、分別はつけるべきじゃねーの｣
入社して数年。ここ最近仕事での責任が増すことに耐えられなかった彼女は、少しずつ酒に逃げるようになった。飲む量も時間も次第に増え、明らかに仕事に支障が出てきているのだ。
｢あと、今日も飲みすぎだろ。何時だと思ってんの。迎えに来る俺の身にもなってよ。｣
こんな馬鹿しかいないバーで、若い女性が深夜に一人で飲むなんて、危険でしかない。危ないヤツなんてこの世には掃いて捨てるほどいるんだ。心配でたまらなかった。
このままでは彼女がダメになってしまうから。
バーボンはいつの間にか空になっていた。
｢自分のこと、ちゃんと大事にしてよ。｣
そういった瞬間だった。
顔に冷たいものがかかった。
視線が突き刺さる。つんとしたアルコールの匂い。がら、から、と氷が地面を滑る。
｢マジで使えない。コジマのくせに、何偉そうにしてんの｣
睫毛からぽたぽたと垂れる飛沫を払うと、彼女は真っ赤な顔をくしゃくゃにしていた。
同期として働く中で、初めて見る顔だった。
｢大事にしてんじゃん。お酒飲まなきゃ明日に響くんだもん。頭がぼーっとして、何も出来なくなるんだもん。｣
アルコールで上擦った声がよく響く。
好奇の目とざわめき。くすくすと笑う声。汚い野次。
見世物にされて、半端な奴らの半端な酒のつまみにされて。
いつもなら既にプライドがズタズタなんだろうけど、回ってきたアルコールが俺をおかしくしていく。
Aのことをも、もっとおかしくしていく。
｢私からしたら、あんただっておかしいんだよ。｣
ぐ、と胸ぐらを掴みあげられる。口笛やら指笛やらが鳴って、いよいよ見世物だ。バーテンダーはわざとらしく裏に下がる。面倒だもんな。わかるけどさ。
｢どうでもいい上司にぺこぺこして、媚び売って、ばかみたい。気持ち悪い｣
｢そうやって難なく生きてるあんたこそ呑まれてんじゃない｣
口の中に残る安いバーボンと氷が、砂でも噛ませているような感触になってくる。間接照明の隙間から、重い仄暗さが降ってきた。
横目でカウンターを見つめる。
いつの間にか新しいバーボンが注がれていた。
飴色の輝きが、俺を誘っていた。
もう一杯！
(呑まれて溺れて死ぬ前に)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やつがれ先輩(プロフ) - �擦気�» 初めまして。コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです！もっと楽しめる作品になるように精進します…。 (2017年8月25日 0時) (
レス) id: f68a99e668 (このIDを非表示/違反報告)
��(プロフ) - 貴方の文章から滲み出る雰囲気とか、独特の世界と言いますか、なんと言いますかすごい好きです。ひっそりと見てます……！ (2017年8月15日 0時) (レス) id: 97e51543ee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やつがれ先輩 | 作成日時：2015年12月20日 1時
