アブ『きみとルームシェア』死ネタホラー ページ14
何がどこにあるのかとか、そういう勘がやっと働くようになってきた。いつもAが出してくれていたから、衣服の在処を全く知らなかったのだ。彼女が死んだ後も、とりあえずはシャツとネクタイとスーツと靴下があれば事足りた。
同僚が、昇進祝いに飲み会をしようと言う。多分気遣いだろうな、とぼんやり思った。
ずっと好きだったのに、バカな事故に見舞われて、あっさりと逝ってしまった彼女。あの男を殺してやろうかと、なんであの優しいひとがと、何度思っただろうか。その時のことを思い出しても、もう吐き気を催すことはない。慣れたのか、精神が擦り切れてしまったのかの区別はつかないけれど。
だからなのかもしれない。今の俺に、それを鼻で笑い飛ばして皮肉を塗り込めたメールを送る気力はなかった。だから、それに甘んじることにした。ならば余計な心配などかけたくはない。せめて明るい格好をしようと、クローゼットを探る。確かテーラードジャケットがあった筈だ。
「…んーと、」
Aの物持ちの良さに、半ば呆れた。就活していた頃のズボンなんて穿けないのに。掻き分けていると、真っ黒い上着に行き当たった。これはなんと言ったか。モーニング、タキシード、燕尾服。…違うな。いや、でもそれにしても。
「こんなのあったかな」
こんな礼服を着た覚えはない。着るような職業でも家柄でもない。
いつか彼女がロマンチックだと言った古い怪奇映画の中で、耳慣れない名の_____ドイツ人らしい俳優が、こういう装いをしていた。東洋の、身近な男にでも着せる気だったのか。バカバカしいような、微笑ましいような。ハンガーから外して出してみる。
「……は？」
サイズを間違えた、なんていう可愛い言い訳なんて通用しないだろう。身丈がまるで合わない。俺よりもずっと長身痩躯でなければ。布地から、何かの花の匂いがする。
彼氏の、俺のための上着じゃない。
胸の奥が冷えるようだった。
Aは、誰と暮らしていたんだろう。
きみとルームシェア
(思わず辺りを見回した)
(俺は、この花の香りに耐え切れそうもない)
きっくん『My fam！！』中編 1→←えおえお『頑張ってる君へのスポイル』甘
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やつがれ先輩(プロフ) - �擦気�» 初めまして。コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです！もっと楽しめる作品になるように精進します…。 (2017年8月25日 0時) (
レス) id: f68a99e668 (このIDを非表示/違反報告)
��(プロフ) - 貴方の文章から滲み出る雰囲気とか、独特の世界と言いますか、なんと言いますかすごい好きです。ひっそりと見てます……！ (2017年8月15日 0時) (レス) id: 97e51543ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やつがれ先輩 | 作成日時：2015年12月20日 1時
