FB777『嘘も方便』切恋 ページ11
ゲームはするのも見るのも好き。歌を作るのも好き。皆と冗談言って喋るのは好き。他にもたくさん好きなことがあったはずなのに、最近は少し違った。
動画編集は嫌い。空っぽな頭から旋律を捻り出す苦しみも嫌い。まともに日本語を扱えない自分の舌が嫌い。
あれも嫌い。これも嫌い。それも嫌い。
「んー…」
パソコンの中に棲む電脳少女を起動しながら、がしがしと頭を掻いた。冷え切ったピザにかぶりつく。ザラザラしたトマトソースも、くたっとしたバジルも、ゴムみたいに固くなったチーズも不愉快だ。結局一口で紙皿に戻す。マウスが油でべっとり汚れた。
「どうしちゃったのかなぁ」
こんな気分は初めてだった。噂のスランプという奴だろうか。頭の中がぼんやり熱くて、息苦しい。風邪という訳でもなさそうだった。俺の風邪の初期症状である頭痛と鼻水は来ていない。
ならば、と目を閉じた。落ち着いて原因を探る。そろそろ新曲をアップするにはいい頃合いだし、この前撮った実況の編集作業も残っている。こんなところで手間取っているわけにはいかなかった。
そしてしばらくして、机上のスマホが振動する。メールアプリについた数字。開いてみると、数少ない女友達からだった。そのメールを見たとき、胸の奥がきゅーっと痛んだ。
え、何これ。
そしてフラッシュバック。あの日のことを思い出す。
_____『ね、好きな人が出来たの』
あの日。電話口で久々に聞いた彼女の声はそう言った。もしかして俺？なんて浮ついた頭は、直後、恥ずかしそうに告げられた名によって急激に冷えていく。そいつは俺もよく知る人物だった。
_____『お願い、ふぶくんにしか頼れないの』
ずるいな、と思った。そう言えば、俺が断れないのを無意識に知っているんだから。
_____『…うん、分かった』
_____『ほんと？ありがと。ふぶくん大好き』
俺はその時に嘘をついたんだ。その時に出来た小さな歪みは、俺の中で炎症になってチリチリと痛む。微熱みたいに燻ったまま、ずっと。
「はははは、…ダメだなぁ、ほんと」
今更気づくなんて。
とびきりの笑顔のツーショットでようやく、だなんて。
「諦めるしか、ないよね。やっぱ」
幸せになってね。
その言葉は、輝くディスプレイに弾けて消えた。
嘘も方便
(全部ぜんぶ君のせいだよ)
(そう言える程、俺は強くない)
レトルト『砂上のループにひれ伏す』パロディ作品→←牛沢『夢と逃避行』暗めほのぼの(?)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やつがれ先輩(プロフ) - �擦気�» 初めまして。コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです！もっと楽しめる作品になるように精進します…。 (2017年8月25日 0時) (
レス) id: f68a99e668 (このIDを非表示/違反報告)
��(プロフ) - 貴方の文章から滲み出る雰囲気とか、独特の世界と言いますか、なんと言いますかすごい好きです。ひっそりと見てます……！ (2017年8月15日 0時) (レス) id: 97e51543ee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やつがれ先輩 | 作成日時：2015年12月20日 1時
