絶対アンタを惚れさせます【影山飛雄】

02 レクチャー ページ4

その笑顔を見て、影山の頭では『動物好き』『悪い奴』『いない』と単語単位でパズルが完成した。

少し考えてから、口を開く。




「……あ、いや…まあ、嫌いじゃないんすけど……嫌われます」

「あぁ」




妙に納得したような口ぶりで相槌を打った女は、影山の頭のてっぺんからつま先をジロジロと見て、そして最後に顔を見るとまた人の良さそうな顔で笑った。





「多分ね、おにーさんが大きくて怖い顔してるからだよ」

「え」





怖い顔。




日頃から日向やら先輩やらに言われているから自覚はしていたものの、見知らぬ人に言われると尚刺さる。

無意識に唇を尖らせた。

すると女は察したのか、犬を抱き上げると影山に近寄り、しゃがみ込む。


よくわからない影山は立ったまま女と犬を見下ろしていて。

女はそんな彼を見上げる。





「動物ってね、上からいきなり何かが来ると驚いちゃうの」

「…？ うす」

「まずは目線の高さを出来るだけ合わせる」





そこで気付いた。

レクチャーだ。



影山は黙って女と同じようにしゃがむ。

目の前には犬。

隣には女。




「…もっと低い方がいいっすか」

「それじゃおにーさんがキツいでしょ、それでいいよ。


あと、リラックスして。動物に触り慣れてないっていう緊張が動物に伝わっちゃうから」




自分では緊張しているつもりは無かったのだが。

多分相当悪人面になっていたのか。


深く呼吸を何度かしてから、犬を見つめた。




「上から手を出しちゃダメ。下から、ゆっくり顎の下を優しく触ってあげて」




言われた通りに実行する。


下から手を差し出し、少し匂いを嗅がれてから、指先でそっと顎下に触れた。





……唸られ、ない。





黙って気持ち良さそうに撫でられる様子に、影山は感動を覚えた。

初めて撫でられた、と興奮が表情に出たままくるっと女を振り向く。




「……!!」

「ね」






至近距離で、女が笑った。





うわ、近。





影山がそう思うと同時。



女の手が、影山の頭にぽんと乗せられ。







「良かったね、おにーさん」







.







声が詰まった。



コクリと喉を鳴らす。





女の手の感触が、心地好い。







.








「っ……、あざっした!!」



動揺を隠しきれずに勢い良く立ち上がり、頭を下げる。

女の顔が見られない。





「いえいえ、良ければまた来てよ」




その声を背中に受けながら、

影山はその場から逃げるように走り出した。



.

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