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1話 リンクさんとわたし ページ1

私には記憶がない。

ここでない別の世界から来たという確かな感覚はあるーが、それだけだ。
自分が一体どんな人間で、どんな人生を送っていたのか。ずっと思い出せずにいる。

まあ、それでも私はなんとか生きていた。神様は存外見捨てたわけではないらしい。

「A。」

私をそう呼び止めた彼の名は、リンクと言った。

緑色の服を身に纏った青年。綺麗な金髪に凛々しい眉、整った鼻筋。高身長で体格も良い。
まさに引く手あまたな美男子といったところだろう。

しかし、そんな呑気なことを考えている状況ではないらしい。
リンクは私を庇うように前へ出ると、静かに背中に身につけていた剣の柄を握った。

一見人っ子一人もいない閑静な森の中だが、…どうやら何かいるらしい。

後ろにいる私を見ると、「すぐ終わらせる。」と短く言ってすぐ様剣を抜き、盾をかまえた。

彼の目からは真剣さが伝わってくる。
「…わかりました。」

どうやら魔物が近くにいるらしい。
私にはわからないが、何年もソレらと戦っているリンクがそう判断できるのならそうなのだろう。

戦闘力のない私は邪魔になるだけだ。彼の愛馬であるエポナの傍らに寄り、リンクから距離を取る。

「いざとなったらエポナに乗って逃げろ。」と何度も口酸っぱく言われ、日頃から一人でも馬に乗れるようにとリンクから教わっていた。
実際今までそんな窮地に陥ったことなんてないが、念には念をと言ってリンクに言われしまい今に至る。

そもそも逃げたところで行く宛もないのだけれど、…当事者であるリンクからしてみれば、こうしていた方が安心して戦えるのだろう。






「はぁあっ!!」

最後の1匹となった獣の姿をした魔物にトドメの一撃を思いきり突き刺せば、その体は黒い塵と化し、最初から何もなかったかのように消えていった。

戦闘が終わりリンクは剣を静かにしまうと、私とエポナの傍に駆け寄った。

「怪我はない?」

「ない、です。」

「よかった…。…エポナも大丈夫そうだな。」
馬を撫でながらにこやかに笑う姿は、どう見ても御伽話の王子様のようでなんだか遠い存在に思えてならない。

「…あの、いつもその…本当にありがとうございます。」

頭を下げれば、彼は優しく笑った。

「お礼なんていらないよ。俺がやりたくてやってることだから。…だから、Aはただ―、」

『そばにいるだけでいい。』

どうしてそんな呪いの言葉をつくのか、どうしていつも笑うのか、私はその理由をまだ知らない。

2話 しょくじ→



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作者名:沙稀乃 | 作成日時:2022年11月14日 19時

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