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「デビューできたからハッピーエンド、そんなんじゃない。私がいるせいでStrayKidsは、みんなは普通だったらしなくてもいいはずの苦労をしてる。それを見兼ねた役員の人が今回の話を持ち出してきたんだよ。そうじゃなきゃ、こんな話出てこない」
「しなくてもいい苦労ってなに?苦労しないで成功する訳ないよ」
「私がいるせいで1位が取れない、良い成績が残せてないじゃない……!私たちはJYPっていう有名で大きな事務所からデビューしてるのに、半年間ずっと1位になれる機会を逃してきた!……私がいるから」
「いや、違う。それは絶対にAだけのせいじゃない」
「ううん、私のせいだよ!Aがいるせいでスキズは1位が取れない、微妙な、頓痴気なグループだって、Aは脱退して欲しいって、チャニだってそういう意見あるの知ってるでしょ?知らないなんて言わせない」
怒りか、悲しみか、苦しみか、プルプルと震える唇を噛んで泣くのを堪えるA。目の前に叩きつけられたどうしようもない現実にこちらも鼻の奥にツンと痛みを感じる。
「でも、だからってAは簡単にStrayKidsを捨てられるの?一緒に地獄へ行こうって、そう言ったのは俺だよ。そんなの全部承知の上であの時Aの手をとったんだ」
「あの時の私たちはまだ幼稚で世間知らずだった。現実は全く甘くないのを身をもって体感して、それでもただがむしゃらに日々を過ごすより、今できる最善策を考えるのはいけないこと?」
違う、そういうことが言いたいんじゃない。なんだか頭に血が上ってしまって上手く言語化できない。Aはきっと間違っては無い、けれどやっぱり間違っている。それを上手く伝えられる言葉が頭に浮かんでこない。ただでさえ母国語でない言語のボキャブラリーなんてたかが知れているのに。
「……俺は、Aが分からないよ。君を、どうしても理解しきれないみたいだ」
気がつけば、そんな言葉が口をついて出た。最後に見た彼女の表情は、澄んだ水に真っ黒な絵の具を混ぜ込んだかのように暗く澱んで、瞳はすっかり彩度を失っていた。
力が抜けて、自分の手からAの腕がそっと離れていく。この時、何がなんでも離さなければよかったんだ。
「……先に練習に戻ってて。後から、行くから」
Aは俺の横を通り過ぎていってしまった。ああ、やってしまった。そう思った頃にはもう取り返しのつかないことになってしまっていて、我慢していた涙も既に決壊寸前だった。
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作者名:ゼロ | 作成日時:2023年10月20日 22時