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「途中からあなたが邪魔で仕方がなかった!私とオッパが付き合ってるんじゃないかなんて噂が流れてきて、世間からはそう思われてるんだって少し嬉しくなったのも束の間、またすぐにあなたの名前がでてきた!
Aとリノしか認めない、私みたいな女に取られるくらいならオンニの方がいい、そんな意見が多くなっていって……なんで、なんでなの」
その一連の流れに私が巻き込まれているなんて知らなかった。メンバーも誰一人そんなこと言ってなかった。
じゃあリノはそれを知ってたから私に見るなって言ったってこと?何も知らないまま日々を過ごしていても、結局こうして事実を知ることになるのに。
私だけ、私だけ何も知らないなんてあまりにも寂しくて、虚しい。と同時にふつふつと何かが沸き立っていくような感覚がする。
私が何も言わないからか、彼女は大きな声を出し私の肩を強く押して壁へと追い詰めた。勢いよくぶつかった背中が痛い。
「なにか言ってよ!リノオッパとは付き合ってないんでしょ?ただのメンバーっていう関係なんでしょ?だったらどうだっていいじゃない!」
「……ただのメンバーなんて言わないでよ。そんな言葉で片付けないで」
先程から少しずつ湧き出る自分の中を埋め尽くすようなドロドロとした何かによって感情が支配されていくせいか、思っていても言わないようにしていたはずの言葉が零れていく。
ここから立ち去ろうと彼女の肩を押すために伸ばした手を掴まれた。その細い腕のどこからそんなに力が出ているのか不思議に思うくらい強く握られる。
「あなたなんか、いなきゃ良かった。なんでいるのよ……」
その言葉は、今まで何度も言われてきた言葉だった。ステイにだって、顔も名前知らない世界のどこかの人にだって、何度も言われてきて、慣れていたつもりだった。
でも同業者に、こうして直接言われるのは初めてで、まさか言われるとは思わなかった。
どこからかザワザワと聞こえてくる人の声にこれ以上ここにいるのはまずいと悟ったのか、言い捨てるように去っていってしまった彼女。
彼女の爪がくい込んで赤くなった手首を見つめ、壁にもたれながらしゃがみこむ。このままみんなの元に戻ったら、きっと私はみんなに言ってはいけないことを言ってしまう。しかしもうそろそろ戻らなければ迷惑をかけるだろう。
仕方なく、衣装の袖で手首を隠しながら楽屋までの道を戻ることにした。……ああ、なんか疲れちゃったな。
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作者名:ゼロ | 作成日時:2023年3月10日 22時