お互いに、不器用で #1 ページ34
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｢Aオンニ、私に喧嘩売ってるんですか？｣
出演した音楽祭の会場のトイレで遭遇した、いや、最初から私を待っていたかのようにそこにいた彼女。場所を変えたいと人気の少ない廊下へほぼ無理やりといった形で連れてこられたと思えば、開口一番発せられたその言葉。
私たちより少しあとにデビューしたガールズグループの子。よくこうして同じ音楽祭や授賞式に出演していたからある程度は顔見知りだし、彼女のグループがデビューしたばかりで初めて現場が被った時に、私に｢かっこよかったです｣と目を輝かせて伝えてきてくれた子だった。
｢ごめんなさい、なんの事か分からないんだけど……｣
｢とぼけないでください。さっきエンディングの時に私の目の前で、リノオッパと仲良く話してて明らかに見せつけてましたよね。私の事バカにしてるんですか｣
｢私はそんなつもりなかったけど、そう思ってしまったのなら謝ります｣
確かに先程のエンディングでリノが隣に来たことは何度かあった。だが、そもそもエンディングと言ったって曲が流れている間、ステージをそれぞれ自由に歩き回っているのだからいつの話かなんて分からない。
｢その言い方がバカにしてるっていうんですよ｣
目の前の彼女は眉間に皺を寄せて目をつり上げ、怒りの感情をこちらに隠すことなくぶつけてくる。
｢私が、私がリノオッパが好きなこと知ってるくせに｣
冷たく彼女から発せられた言葉。ああ、そういえば、少し前にリノが一部のネット上で騒がれている熱愛報道かなんかに巻き込まれたって言ってたっけ。お前はなにも気にするなと言われたから、言われた通りに気にしないようにした。ネットに疎いし、特に詮索しようとも思わなかった。
……となると、現場もよく被っているしこの子はリノのことが好きみたいだから、噂されている相手というのはこの子なんだろうか。
｢ごめんなさい。知らなかった。そういうのに疎くて……。でもあなたがリノと恋人同士だったとしても、それによって私とリノとのこの関係が変わることは無いと思う。そこは理解して欲しい｣
｢……は？ふざけないでよ！私は、私はオッパのことこんなに好きで、関わりたいのに、いつも隣にはあなたがいて楽しそうに話をしてて……！男女なのに、同じメンバーってだけで……！｣
だんだんと口調も崩れて、今の自分の思いをそのまま勢い任せに制御をかけることなく口から出したような言葉の数々に息を飲んだ。
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作者名：ゼロ | 作成日時：2023年3月10日 22時
