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その洞察力には毎回お手上げ状態。なのに自分のことになると途端に隠してしまうんだから。自分より歳下である僕たちには特に。
「それでねスンミナ」
「なにそれ?」
小さな冷蔵庫から一つの瓶を取り出したヌナ。黄色い……多分はちみつ?の中に薄い輪切りのレモンと白い角切りの何かがたくさん入っている。
「はちみつ大根って言うんだけど……」
「はちみつの中に大根が?」
「そう。でも大根自体は食べなくても良くて、大根を漬けたこのはちみつがすごく喉にいいんだよ」
そう言いながらマグカップを用意したヌナは紅茶のパックをどこからか取り出し、ポットからお湯を注いで、最後にスプーンで瓶から器用にはちみつとレモンをすくい上げカップに溶かし入れた。
「小さい頃風邪をひいた時にいつもお母さんが作ってくれて……その時はホットミルクだったけど」
目の前のテーブルに置かれたはちみつ大根の紅茶。湯気と共に香るハーブの匂いが鼻に通る。
「これ飲めば気持ちばかりかもしれないけど楽になるかも」
「ありがとう。いただきます」
とにかく優しい味だった。喉の奥にじんわりと広がっていくはちみつとハーブが少し逆立っていた気持ちまで鎮めてくれる気がして喉の違和感も落ち着きそう。
「ヌナ、これ美味しい」
「良かった〜漬けておいた甲斐があったよ」
「ヌナも喉の調子が悪いの?」
「ううん。たまにこの味が恋しくなる時に作ってる。今日はホントたまたま」
うーん本当かな?僕が深く追求したところでヌナのことだ、きっとうまく交わされてしまうだろうし。だからこれ以上追求しようとも思わないけれど、いつも通り普通に喋っているし大丈夫だと思う。
「スケジュール続くし明日も飲みなよ。宿舎に持って帰る?」
「えいいの?あーでも、他の奴らに飲まれる……」
「じゃあレシピをカトクにでも送ってあげようか?」
「いや、またここに飲みに来る」
ヌナが作ったものが飲みたいなんて素直なことは言葉には出来ないけど。こういうのって人に作ってもらうっていう事実がまた特効薬になるというか……気持ちが籠ってるってやつ?
「それは全然構わないけど、めんどくさくない?」
「うん。ヌナがいいならそうしたい」
「分かった。私の宿舎にもあるからいつでもおいで」
ちょうど飲みきったところでヒョンジンが勢いよくドアを開けて入ってきた。危ない、バレるところだった……。きっとこの後怒られるんだろうけど。
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作者名:ゼロ | 作成日時:2023年3月10日 22時