炎に包まれて 澤田亜希 ページ10
この人間が支配してきた世界は終わろうとしている。そしてこの街の片隅でも。
徐々に増えてきたオルフェノクは、人間よりも強く勢力を拡大し、人々を襲った。ビルが次々と爆発を起こし、辺り一面が火を帯びる。
『亜希!ねぇ、亜希!』
「A…。」
二人もその火の海に巻き込まれた。火の柱が二人を分けて、今は互いの声しか聞こえない。Aは亜希の褒めてくれたお気に入りの水色のワンピースを灰で汚し、所々燃えてしまっている。火傷も負い、このままここにいたらきっと死んでしまう。
『行かないで…、お願い!私もそっちに行く!』
「来ちゃダメだ!!来たら…命はないよ。」
『それでも…。』
亜希は必死なAに向かって冷酷に言葉を放った。彼はスパイダーオルフェノクに覚醒してしまったのだ。オルフェノクと人間は相容れない、すれ違った存在。もしも、Aが彼と行けば、きっと後悔する結果になるだろう。
「早く向こう側に逃げて。俺はもう…ニンゲンじゃない。」
『嫌だ…、亜希は亜希だから!私はここから動かない。貴方の声が聞こえなくなっても、ここが貴方に一番近い場所なら動かない!』
Aは涙を流し、咳き込みながら言葉を放ち続ける。優しくて明るくて、大好きな人と離れるなんて考えられなかった。
「そのままじゃ、死んじゃうよ……。」
轟々と燃える火のなか、小さく声が響く。亜希は意を決してオルフェノクに変身し、炎を切り裂くように走り出した。
『ごほっ…ごほっ…。』
Aは意識が朦朧として自分の手元さえ見えなくなって来た。どうせ人間が滅んでしまうのなら、愛した亜希のすぐ近くで人生を終えてしまおう。それが彼女の最後の思考だった。
亜希が火を潜り抜けた先には、意識を失ったAがいた。
「俺はニンゲンじゃないから…、こうするしか出来ない。A、一緒に来て?」
悲しそうに、しかし幸せそうに、彼はそう言う。真っ赤に燃える炎と一緒に小さく青色の炎が立ち上った。
日を跨いで、あれほど燃え盛っていた炎も燃え尽きてしまった。散り散りになった彼女のワンピースは、元の色をしておらず、灰に満ち毛布に包まれていた。
「A…。」
優しい声が彼女の耳に届くと、ゆっくり目を開けた。
『亜希…私は?』
「うん、ニンゲンじゃない。」
怪しい瞳がうっとりとAに語りかけた。その目はまるで蜘蛛糸のように彼女を掴んで離さない。
壊れた世界がまた、新たに始まろうとしていた。
−−−−−
end
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Akira_s2(プロフ) - あめだまさん» リクエストありがとうございます!剣崎くん承知しました☺️更新までしばらくお待ちください (5月6日 21時) (レス) id: 4fceb90968 (このIDを非表示/違反報告)
あめだま(プロフ) - 初めまして!コメント失礼します!仮面ライダー剣の剣崎一真って可能でしょうか? (5月6日 17時) (レス) id: 4eb730f803 (このIDを非表示/違反報告)
Akira_s2(プロフ) - 陽炎さん» 読んで頂きありがとうございました! (3月4日 22時) (レス) id: 4fceb90968 (このIDを非表示/違反報告)
陽炎 - 本当に素晴らしいお話をありがとうございます! (2月28日 15時) (レス) id: e05c80d031 (このIDを非表示/違反報告)
陽炎 - リクエストに答えて頂いてありがとうございました!! (2月28日 15時) (レス) @page19 id: e05c80d031 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Akira_s2 | 作成日時:2024年1月13日 23時