毒に侵される 草加雅人 ページ11
偶然通りがかった狭い道のその脇に、良く見覚えのあるサイドカー付きのバイクが止まっていた。ただAは何気なく、その曲がり角にいるだろう人の名を呼んだ。
人間解放軍で共に戦ってきた仲間として、Aは彼に心を許していた。また彼もAのことを大切にし、いつも気遣っている。
だからその光景を信じたくない。正真正銘、彼の手が隆の頬にぶつかった。
『なに、してるの…?』
彼女の声に二人が振り向いた。
「あぁ、A。助けてくれ、この人が俺を殴ったんだ…、そのせいで腕を怪我した。」
『どうして、殴ったりなんかしたの?…怪我したのに殴ったの?』
「…今のはついカッとなって殴ってしまったんだ。怪我をしたのは逆の手だ。」
Aは彼の発言を疑った。なぜなら咄嗟に抑えた腕は、殴った時に出た方だったからだ。
『……そうなの、隆くん?違うよね、こんなの何かの間違いよ。』
「ち、がう。」
隆は左下の方を見てそう言った。きっと我慢しているんだと、Aは察知した。この状況でするべき事は何なのか、何が正しいのか、彼女には分からない。
「A行こう。」
彼は強く彼女の手を引いた。動く気のなかったAはその反動で足を絡ませ、躓いてしまった。彼と一緒に買いに行った黄色のジャンパースカートが黒く汚れ、敗れてしまう。
「失望したよ、俺との思い出を傷つけるなんて。」
『あっ……えっと、ごめんなさい。』
「元はと言えば、君が俺を殴ったからだ。Aも悲しんでいる。責任を取って弁償くらいしたらどうだい?」
「……。」
二人の視線がぶつかり合い、火花が散った。それに油を注ぐか、鎮火するかの選択がAに迫る。
『隆くんは関係ないよ。…草加くんも、本当は殴られてないんじゃないかなって思う。何があったか分からないけど、もうそうやっていがみ合うのは良くないよ…。』
これが彼女の精一杯だった。膝にできた傷から血が流れ、黄色に侵食していく。
「Aは俺を信じないと言うのかな。酷いじゃないか、今まで優しくしてやった恩を忘れたのか?」
『…草加くん、私嫌だよ。ずっと騙してたんだね、草加くんの本性はそんなに醜かったの?』
優しく笑っていた彼の表情は一瞬無になった。そして次には不自然なほど頬が吊り上がる。
「俺の事を好きにならない人間は邪魔なんだよ。」
そう吐き捨てると、彼はバイクを走らせて行ってしまった。
−−−−−
end
32人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Akira_s2(プロフ) - あめだまさん» リクエストありがとうございます!剣崎くん承知しました☺️更新までしばらくお待ちください (5月6日 21時) (レス) id: 4fceb90968 (このIDを非表示/違反報告)
あめだま(プロフ) - 初めまして!コメント失礼します!仮面ライダー剣の剣崎一真って可能でしょうか? (5月6日 17時) (レス) id: 4eb730f803 (このIDを非表示/違反報告)
Akira_s2(プロフ) - 陽炎さん» 読んで頂きありがとうございました! (3月4日 22時) (レス) id: 4fceb90968 (このIDを非表示/違反報告)
陽炎 - 本当に素晴らしいお話をありがとうございます! (2月28日 15時) (レス) id: e05c80d031 (このIDを非表示/違反報告)
陽炎 - リクエストに答えて頂いてありがとうございました!! (2月28日 15時) (レス) @page19 id: e05c80d031 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Akira_s2 | 作成日時:2024年1月13日 23時