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No.8:* ページ8

Aの脱出があった日から無惨は童磨に、監視を厳しくしろと命じた。


童磨はその命令に従い、ずっとAの傍にいて、何度も話しかけた。

この世に幻滅したAは何にも言葉を話さなくなった。

だが童磨は、Aのせいで眼球を抉られても特に変わらずにAと接した。


それがどれだけ不毛な会話であっても。

一方的な会話は続いた。



ある日童磨は言った。


もう一度脱出してみるといい。

君が脱走した時から2年経過している。きっと無惨様は以前よりも君を信用しているだろう。



それに、と童磨は続ける。


Aはまだ人間の部分も残ってはいるが、鬼にぐんと近づいた。

運動神経が良くなった。

血鬼術も使えるようになった。


人を一人も食べてないとはいえ、今のAでも下弦の鬼に匹敵するだろう。




Aの居場所を隠す血鬼術で、無惨様に気づかれることはない。


だから今日は、無惨様に殺してもらうことを目的にせず、


__人間に殺してもらうといい。



するとAは安心したように頷く。そして、

『…ありがとう』


それが初めて童磨に見せた、Aの笑みだった。


Aの笑みを見た後、童磨は今までに感じたことの無い、何とも言えない感情に襲われた。



__


結局Aは人間に殺してもらうことも叶わなかったが、代わりに優しい人間に会ったと珍しく嬉しそうに話した。

それからAは無惨のいない時間を見計らってほぼ毎日、その人間の元へ行くようになった。


その人間のことを聞くと彼女の顔は優しくなる。

自分とは違う感情をしっかり持つ人物に、彼女はなった。


確実に変わった彼女を見て童磨は。


嬉しさと、彼女の笑顔を見るのは俺がよかったと無意識に思うよく分からない感情を手に入れた。





その感情の名前を、



童磨は知らずに今日ものうのうと生きる。

No.9:無限城→←No.7:童磨の恋



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作成日時:2020年1月23日 15時

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