本当のこと1 ページ30
「さ、どうぞ」
『ありがとうございます…』
Aside
助手席のドアを開けてくれる安室さん。
紳士だなぁ。
にしても、あのデパートには行ってないって…
あれは確かに安室さんだったはずなのに。
本人が違うって言うなら違うのかな。
「じゃ、行きますね」
ブォン、とエンジン音を鳴らして走る車。
運転姿、かっ…かっこいいなぁ。
「今日は久しぶりに会えてよかったです。最近ポアロに顔を出されてなかったものですから」
『あ、あぁ…そうですね…忙しくて』
「そうでしたか。なら尚更今日会えたのはラッキーですね。楽しかったです」
何でそんなこと言うの。
鼻の奥がツン、と痛くなって涙が少しだけ滲む。見られたくなくて咄嗟に外を見るけど、ぽろ、と頬を流れた。
「…？どうかされました？」
『あ、いや、目にゴミが入っちゃって』
咄嗟に嘘をついて目を擦った。
「大丈夫ですか？車止めましょうか？」
『いやいや、大丈夫です！』
この優しさが今逆効果だよ…。
涙を堪えると、不思議と余計に出ちゃう。
私は堪え切れずに、また少し、外の景色を見ながら声を押し殺して泣いた。
この車を降りたら明日からはまたただの店員さんと常連客
すると突然、安室さんは車を路肩にハザードをして停めた。
『…？』
顎に手を添えられ、安室さんの方を向かされる。
『っ…、な、なんですか？』
咄嗟に赤らむ顔。
「…僕のことで泣いてますか？」
安室さんのまっすぐな眼差しに全てを見透かされそうで。
心臓の音が聞こえてしまいそう。
『っ…や、違います』
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作者名：つくね | 作成日時：2023年6月14日 20時
