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「まあ、それではあの姫君は…」
「そ、もうちょっとで国元に帰っていくと思うよ。そもそも、父親に無理言ってついてきただけらしいから。」
「そうなのですね…」
「…嫌な思いさせてごめんね」

夕餉の席で、雑渡様がぼそりと呟いた。

「ふふ、もう気にしていません。雑渡様に、嬉しい言葉をもらえましたから。」
「…なら、よかった。」

ご飯を食べ終わった後、お皿を洗おうとすると、止められた。

「座ってなよ、私がするから。」
「でも」
「いいから、ほらほら」

ぐいぐいと囲炉裏のそばへ押しやられ、やっと観念する。

手持ち無沙汰だったので、雑渡様の忍び装束を繕うことにした。

ちくちくと針を勧めて、破れてしまっているところを塞いでいく。

忍び装束は、雑渡様と暮らし始めてから幾度となく繕ってきた。

忍びが着用する、忍び装束。

忍びは山の中のようなところでも仕事をするため、ちょこちょこ枝などにかすって破れてしまうのだ、と最初に雑渡様から聞いた。

忍務の過酷さ故に、大きく破れてしまっているときもあった。

ああ、そういえば、雑渡様の冬の温かい着物を作りたいわ。今度町におりたときに、良い生地がないか探さなくちゃね。

雑渡様の許嫁になって、夏が過ぎ、秋が終わりかけ、季節は冬になろうとしていた。

「ねえ、A」
「はい、何でしょう。」
「一緒にお酒、飲まない?」
「まあ、お酒ですか。」
「そう、良いのもらったんだよね。」
「そういうことなら。」

二人で縁側まで移動し、外を見る。

空に、月が煌々と輝いていた。

「おいしい…」

ほうっと息を吐く。

お酒はそこまで強くないけれど、嗜む程度にはなれている。

「このお酒、とても美味しいです。…もう少しだけ…」
「ちょっと、結構強いお酒だし気をつけないと…」










四半刻後。

「ざっとさまあ〜」
「あーあ、だから言ったのに。」
「むうううう」

目をとろん、とさせてこちらを見る彼女は、少々刺激が強い。

しかしこちらの理性などお構いなしに、彼女はすりすりと胸元に頬ずりしてくる。

「ざっとさま、すきです。いつまでもおしたいしています。」
「はいはい。…私も、好きだよ。」

小さな声で落としたつぶやきは、酔っている彼女に聞こえるはずもない。

「なにかいいましたか〜?うふふふふ、」
「なにも言ってないよ、ほら、早くお布団のところ行くよ。」

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設定タグ:忍たま , 雑渡昆奈門 , タソガレドキ   
作品ジャンル:恋愛
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (2023年5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (2023年5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時

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