56.鬼過去 ページ16
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糸目鬼の頸を切り落としたA。鬼を倒した事の安心感なのだろうか、軽い溜息を一つつく。
一方、糸目鬼は自分が頸を切られた事に意外にも冷静であった。もっと言えば数刻前まで荒ぶっていた心が嘘の様に穏やかであった。
____昔の記憶が頭に流れ込んできたからだ。
「・・・私、いや俺は」
先程まで、自分が何を口走っているのか良く分からなかった。自分の口から出てくる昔の記憶に関する言葉。言葉では出てくるのに脳では良く思い出せない。それがとてももどかしかった。
目の前にいるこの女が何処か懐かしかった。
この女を側に置けば何か掴めると思った。でもこの女は反抗的でこの女を見てると頭痛がして、ならいっそ殺そう。そんな結論に至った。
「そうだ。貴方は昔から芯が強い人だった」
でもこの女は強かった。私の最大限の血鬼術を使っても倒せないどころか逆に強い信念で切られた頸。
その瞬間見せた、この女の瞳がただただ美しかった。自然と自分の心から憎悪が消えてしまった。私はこの瞳を知っている。そう強く思ったとき、人間だった頃の記憶が脳に流れ出した。
「・・・きぬ、よ」
絹代。
人間だった頃、愛していた女性。
口が達者で反抗的で何処か掴めなくて、我儘な女。でも心の奥の優しさと、芯の強さがとても魅力的だった。嫌いなんかじゃない。大好きだった。
でもある日鬼になってしまった私は、その愛する人を喰ってしまったのだ。
「すまない。すまない絹代……」
「・・・涙」
彼女を喰ったその日から、現実を受け止めきれなくて彼女を忘れたいと願ってしまった。違う自分になってやり直したいと一人称を俺から私に変え、敬語を使い冷静ぶった。人間の恋人が多分昔の俺と絹代に重なって見えて妬ましかった。
絹代は折り紙が好きだったっけ。
自分の体が消えていく。この女の言う通り俺は大馬鹿野郎だったなあ。
地獄に行くのだろう、ゆっくり目を瞑ればふいに頭に感じる暖かな手の温もり。そしてAと呼ばれた少女の声。
「貴方は大馬鹿野郎だと思う」
「そう、ですね」
「でも、今の貴方の瞳は優しくてあったかいとも思った」
「・・・!」
"貴方は優しい瞳をしてるのね!"
昔絹代に言われた言葉だ。嗚呼、やはり君は愛しい人に良く似ている。
_______ありがとう。
糸目鬼が最後の一粒の涙を流したと同時に、糸目鬼の体が消え去った。
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うえ - んぎゃ..鬼にまで好かれるとか最高すぎんか..待ってます!! (1月5日 9時) (レス) @page36 id: 9aa429e4c8 (このIDを非表示/違反報告)
さめしゃち?(プロフ) - あっ好きです(急)結婚しましょu(((((( すみません取り乱してしまいました^ ^めっちゃにやにやしちゃいましたww更新待ってます!!!! (2023年5月7日 21時) (レス) @page36 id: 94eab444ed (このIDを非表示/違反報告)
Komachi(プロフ) - ふづきさん» あ、へ?え!?なんか褒められました!?あざさです!(?)めっちゃ嬉しいです!(なんのことかよくわかっていない件について) (2022年3月6日 1時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
ふづき - Koma?♂さん» がちでおもしろすぎるww文書く才能ありすぎです (2022年3月6日 0時) (レス) @page36 id: 3d9c5132e5 (このIDを非表示/違反報告)
Koma?♂(プロフ) - ぁぁダァダダァぁ!好きです!もうこういうのをまとめてました!更新頑張ってください!応援してますぅ (2021年11月3日 22時) (レス) @page36 id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むにゃねこ44 | 作成日時:2019年8月13日 2時