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「いらっしゃいませ。ゾムでーす！名前聞いてもええ？」
にっこりと営業スマイルを浮かべて、隣に腰掛ける。そんな俺に驚いたのか、お客様は、ピクリと体を揺らすと、俺から少し距離をとった。…少し悲しいな、これでも俺人気の方なんやけど。
「え…と、Aです。よ、よろしくお願いします…。」
体をガチガチに固めて、緊張しきっているのがわかるような態度で、俺に声をかけるAちゃん。なんやのこのこ、まで接客したことのない服ないタイプなんやけど。…これは難儀そうやなぁ。まぁ、それでも手加減をせんのやけど。
「そんな固くならんといて!仲良くしようや!」
ぴとっと身体をくっつけ、肩を抱く。Aちゃんは、そんな俺に視点を合わせ、泣きそうな顔でへにゃ、と笑った。…何でそんな顏すんねん、店に来たんやし、楽しめや。…俺が接客してんねんぞ。まるで、何かに追われているかのような顔やった。そんなん、気にしないけど。
チラリとショッピ達を見れば、もうベッタベタにくっついて、仲良く高い酒を飲んでいた。ほんま、その子はショッピくんに貢ぐよなぁ…。俺は今日は、お得意さんくる予定ないし…。目の前のAちゃんに声をかけながら、思考をまた別のところへ飛ばす。この仕事についてから、意識を分けるのがうまくなった気がする。大抵、適当に返事しといたら喜んでくれるし。…なのに。
「なぁ、これ飲みたいんやけど…ダメ？」
上目遣いに、おねだりする俺。この店でも高い方の酒を指しても、殆どのお客さんは奢ってくれる。とりあえず、一本買ってもらって、もう一回来るよう仕向けるか。…そんな考えだった。
「えっ…？うん、と、ちょ、ちょっとごめん、トイレ行ってもいい？」
俺のおねだりを受けたAちゃんは、メニューを見て俺の顔を見て、少し戸惑ったように席を立った。多分、トイレに行くのは席を外すための理由で、とりあえず俺から離れたかった…何か考えたかっただけだろう。少しだけメンタルがえぐられる。俺が相手してる時に、席を立つ人なんてほとんどいないのに。
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